人気車の陰に不遇のクルマあり
なぜ納期が長いのか。トヨタの販売店では以下のように返答した。
「ヤリスやハリアーは新型車とあって、生産規模を大幅に上まわる受注をいただいた。そのために生産が追い付かず、納期も伸びた。受注が増えた背景には、2020年5月からトヨタの全店が全車を扱う体制に移行したことも影響している。以前はヤリスはネッツトヨタ店、ハリアーはトヨペット店の専売だったが、今はどの店舗でも購入できる。その結果、売れ行きが伸びて納期も遅れた」。
例えばトヨタカローラ店が扱うノアのユーザーが、コンパクトカーに乗り替えたいと思った時、以前はヤリスを買うには販売店をネッツトヨタ店に変える必要があった。
そこでカローラ店の専売だったコンパクトカーのパッソ、あるいは全店が扱うアクアを購入していた。
ところが今は全店が全車を扱うから、好きなクルマを自由に選べる。これは全店が全車を扱う大きなユーザーメリットだ。
その代わり前述のとおりノアからヤリスへの乗り替えも容易になったから、パッソやアクアを選ぶ必要はない。そうなるとヤリスの売れ行きが伸びて、納期も長引いてしまう。
またヤリスが好調に売れる半面、パッソやアクアは下がる。例えば2020年7月におけるアクアの登録台数は、対前年比が37.9%だ。60%以上も下がった。
ヤリスハイブリッドはアクアに比べてプラットフォームの設計が新しく、衝突被害軽減ブレーキなどの機能も先進的だ。
ヤリスハイブリッドが売れてアクアが下がるのは当然だが、ヤリスがネッツトヨタ店の専売なら、アクアが60%以上も下がることはなかっただろう。
実際、2020年3月の段階では、ヤリスは小型/普通車販売ランキングの3位で、アクアも中盤の12位を保ち、対前年比のマイナスは46.5%だった。大幅な減少ではあるが、60%は超えなかった。
アルファードとヴェルファイアの明暗
同様のことがアルファードとヴェルファイアの売れ行きにも当てはまる。以前はアルファードがトヨペット店、ヴェルファイアはネッツトヨタ店の専売だった。現行型が登場した時までは、販売店舗数の違いもあってヴェルファイアが多く売れていた。
しかしマイナーチェンジでアルファードのフロントマスクが存在感の強い形状に変わると、ヴェルファイアを追い越して、登録台数の順位が逆転した。
2020年5月に全店が全車を販売するようになると、ますます販売格差が広がり、2020年7月の登録台数はアルファードが8448台、ヴェルファイアは1289台で約7倍の差が生じた。
ネッツトヨタ店では、「新たにアルファードを扱った結果、ヴェルファイアから乗り替えるお客様も増えている。アルファードのフロントマスクは、ヴェルファイアよりも明らかに人気が高い」という。
全車全店扱いにより廃止する車種が浮き彫りになる
以上のアルファードとヴェルファイア、ヤリスとアクアの間に生じた販売格差は、トヨタの狙いどおりだろう。トヨタは姉妹車を含め、車種数を半減させる方針を2018年に打ち出していたからだ。
アルファードとヴェルファイアのように、全店が全車を扱えば、人気車と不人気車が自然に選別されて廃止すべき車種も浮き彫りになる。
2018年の時点で、トヨタは「国内で売る60車種を30車種に減らす」としていたが、現時点でトヨタのホームページに掲載されるのは、OEM車を含めて45車種前後だ。
今後は姉妹車と、売れ行きの下がったポルテ&スペイド、プレミオ&アリオンなどを削って約35車種になる。トヨタの車種削減は、全店が全車を扱う体制に移行したことでかなり進んだ。
この車種削減は、ユーザーの不利益にもなるだろう。今後アルファードを残して売れ行きの下がったヴェルファイアを削ると、後者のファンは寂しい思いをする。ヴォクシー系3姉妹車にも同様のことが当てはまる。
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