ダイハツコペンは2014年6月、ホンダS660は2015年3月にそれぞれデビュー。大量生産大量消費の上に成り立っている日本のクルマ界にあって、数が見込めなくても作り続けられている貴重種と言える。
平成初期のホンダビート、スズキカプチーノ、オートザムAZ-1が形成した軽スポーツカーの平成ABCトリオほどの盛り上がりではないにせよ、ともにオープンで3気筒ターボエンジンを搭載するダイハツコペンとホンダS660は、日本のスポーツカーファンに応える愛すべき存在である。
それぞれ登場から時間の経っているモデルではあるが、当記事では2台を比べてみた。
文:永田恵一/写真:DAIHATSU、HONDA、SUZUKI、SUBARU、ベストカー編集部
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コペンは4タイプをラインナップ
コペンは初代モデルが2002年に登場したFFレイアウトの軽オープンスポーツである。
初代コペンはユーモラスなスタイルや軽ながら前年に登場したトヨタソアラの4代目モデルのような電動オープントップを基本とした点、4気筒エンジンの搭載など、軽としては贅沢なプロムナードカー(お散歩クルマ)的なキャラクターが特徴だった。
初代コペンは2012年に生産終了となり、コペンの歴史は一度途切れるのだが、2013年の東京モーターショーへのコンセプトカーの出展を経て、2代目モデルとして2014年に復活。
2代目コペンもFFレイアウトや電動オープントップを踏襲し、ボディパネルの一部を樹脂製とし、取り外し可能としたボディ構造の採用により、後述する多くのボディタイプを持つ。
このボディ構造の採用により購入後に着せ替えるようにボディタイプを換えることも可能だが、保管場所が要る上に安くないボディパネルが必要になることもあり、利用している人は少ないようで、ユーザーレベルでのメリットが薄かったのは否めない。
ボディタイプは最初に登場した基本となるローブ、SUV的なエクスプレイ、初代コペンを思わせる丸いヘッドライトとテールランプとなるセロの3つを持つ。
バリエーションは3つのボディそれぞれに標準とビルシュタインダンパーやモモのステアリング、レカロシートが付くSに、2019年トヨタでも販売されるGRスポーツが加わった。
GRスポーツはC-HRなどにも設定されるトヨタのGRブランドのコンプリートカーではベーシックな存在で、コペンのGRスポーツも他車のGRスポーツと同様のパーツの追加によるボディ補強や専用サスペンションの装着などが施され、エクステリアも前後バンパーなどが専用のものとなる。
S660はミドシップで走りの資質は本格的
2015年に登場したS660はエンジン横置きのミドシップレイアウトとなる点など、ずばりビートの現代版的存在となる軽オープンスポーツだ。それだけに後述するように特に人が2人乗った際などの実用性はゼロに近い。
しかし、その代わり前後異径で後輪は16インチとなるタイヤ、四輪ディスクブレーキの採用など、軽ながらスポーツカーとしての資質は本格的である。
バリエーションは標準のβ、上級のα、元レーシングドライバーの土屋圭市さん監修のホンダアクセスのコンプリートカーとなるModuloXの3つだ。
実用性比較
これはコペンの圧勝だ。具体的にはキャビンの収納スペースは両車財布やスマホといった身の回りの物を置くスペースは確保されており、特に不便はない。
だがS660のラゲッジスペースはボンネット内のロールトップ(幌)を置くスペースしかなく、そのスペースもオープンにして幌を置いたら使えないし、ラジエーターのすぐ後ろなので壊れたら困るものなどは置けない。
それに対しコペンは電動オープントップをオープン状態としてもラゲッジスペースに2人分の一泊二日分くらいの荷物は入り、この違いは大きい。
また乗降性はコペンもよくないが、S660はオープン状態でないと乗り降りだけで嫌になりそうなくらい悪く、毎日乗るスポーツカーとして使うのは若くないと厳しい。
オープン時の快適性
これもコペンの勝ちだ。オープンで走っている際の風の巻き込みに代表される快適性自体は両車同等だ。
しかしコペンはボタン操作ひとつでルーフを開閉できる電動オープントップなのに対し、S660のルーフは幌をロータスエリーゼのようにクルクルと丸めてボンネット内に収納するロールトップなので、ルーフ開閉に手間が掛かる。
さらにオープンにした際は頭上しかオープンにならないS660に対し、コペンはBピラーがなくなる古典的なオープンカーなので、オープンカーらしい開放感もコペンの圧勝だ。
またS660のバックの際の後方視界はBピラーの形状の関係で軽乗用車ながらバックモニターが欲しくなるくらいよくない。
運転する楽しさ
これはS660の圧勝だ。サーキットのラップタイムに代表される絶対的な速さはS660のほうが速いようだが、どちらもたいして速くない。
しかしそんなこと以前にS660はミドシップらしい鋭い回頭性を持ちながらもFR車のような安心感も備える高レベルのハンドリングを実現し、シフトとクラッチの操作感も良好、ブレーキのフィーリングもガッシリとしており、まとめると軽ながらも本物のスポーツカーである。
さらに動力性能が強烈ではないだけに常識的な範囲の運転でもアクセルを深く踏める点など、「自分がクルマを走らせている」という感覚が非常に濃厚で、S660が与えてくれる楽しさはS660にしかないものだ。
対するコペンのドライブフィールは標準系だと軽乗用車のスポーツモデルに近く、MTだとシフトとクラッチの操作感が今ひとつなのもあり、CVTのほうが似合うという印象だ。
ただGRスポーツは前述したボディ補強や専用サスペンションなどの効果により、全体的にクルマが引き締っており、S660には及ばないものの軽オープンスポーツの名に恥じないスポーツ性と乗り心地に代表される快適性を得ている。
まとめ
この2台の価格はコペンのほうが安い傾向だが、この種のクルマは完全に趣味のものだけに好みや用途に合った方を選べばいい。
またこの2台は同じジャンルでも得手不得手がハッキリしている、つまりキャラクターがまったく被らないだけに、検討はするにしても最終段階まで迷うということは少ないのではないだろうか。