■あおり運転『する側』のカウンセリング例
●『ばかばかしいこと』と自覚しててもやってしまう
「あおったり、窓を開けてほかのクルマについ文句を言ってしまうんです」
3年ほど前、藤井准教授のもとを、こんな悩み事を抱える男性が訪れた。40代で営業職。取引先を回るため、1日の勤務時間の大半は社用車の運転に費やす。
大切な商品を積んでいることで神経は過敏な状態。道路事情で遅れてはいけないと、常に時間が気になる。
このため「気付いたらクラクションを鳴らしまくり」「無理やりに右折」「前のクルマとの車間距離をつめてしまう」ことがよくあり、やめられないのだという。
藤井准教授は臨床心理学が専門だ。男性には「認知行動療法」でカウンセリングを行った。
「損得勘定法」というワークシートを用い、行為の具体的な日時や状況、理由を聞いたうえで、それは自分にメリットがあるのか、デメリットなのかを認識させる手法だ。
男性はある日、「急な割り込みをされた」ことで、そのクルマを追いかけ、前に割り込んだ。「こらしめないと、わからない」「仕返し」が動機だった。
この対応について男性が自身の心理状態を自己分析すると、「仕返しに失敗したら、かえってイライラして次の仕事に悪影響が出るかも」などデメリットの度合いが、「気持ちがスカッとする」などといったメリットを大幅に上回った。
客観視したことで、男性は自身の行為にほぼ利点がないことを改めて認識し、運転時の感情の抑制に結びつけることができたという。
あおり運転が社会問題になったこの1年は、同様の悩みで藤井准教授のカウンセリングを受ける人は急増。
約30件を超えた。きっかけは、2019年の夏の常磐道でのあおり運転による事件が大々的に報道された影響が大きい。
「その前はほとんどいなかったんです。3年前に相談を受けた会社員は、『あおり運転』という意識ではなく、運転時に自分の怒りが収まらないという悩みでした。あの常磐道の事件以降、僕もメディアで解説する機会が多くなったので件数が飛躍的に増えました」
実際に、あの事件の状況を映像で見て、「自分も似ている」と、カウンセリングを受けに来た男性もいた。
「クルマを1回抜いたんだけど怒りが収まらなくて、スピードを緩めて、そのクルマを待ってしまう、と。何かしてやらないと気が収まらないというのです」
自分で「ばかばかしいこと」と自覚していてもやってしまうのが特徴のひとつだという。
■あおられた時の対処法は?
●スマホのカメラを向けるのはNG!
「安全な場所から110番通報」「ドライブレコーダーを積極活用」。警察庁は、あおり運転を受けた際にはこの2点を呼び掛けている。
安全な場所とは、高速道ならサービスエリア、パーキングエリアなど事故の危険性がないところ。
「車外に出ることなく、ためらわずに110番通報」することが肝要だ。ドラレコについては「妨害運転等の悪質・危険な運転行為の抑止に有効」と説明している。
藤井准教授もこれはずっと以前から言い続けてきたことだという。
「大切なのは、(あおられた)自分に非がなく、正しいと思っていても、怒鳴りつけたり、威嚇してくる人には、対応しないことです」
あおり運転で事件になったケースでは、窓を開けたために、殴られるなど身体に危害を加えられたことが実際にあった。場合によっては、車体を蹴られたり、器具で叩かれることもあるだろう。
愛車を傷つけられるのは耐えられないことだが、「自分の身を守るのが第一です」と説く。
現代はほとんどの人がスマホを所持している。動画で記録するために、相手にスマホのカメラを向けてしまいそうだが、この行為はNGだ。
「『何を撮ってるんだ!』と、相手を刺激する可能性が高い。もしスマホで記録するなら、手元に置いて音声だけを記録するのも有効です」
理想は車内も映るドラレコの設置。2万~3万円台の製品もあるので、必要なコストと考える時代なのかもしれない。
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