新型コロナウイルスの感染拡大で、「三密」での移動を避け、クルマのハンドルを握る機会が増えた、という人は少なくないだろう。
マイカーの存在価値が見直された2020年、あおり運転の厳罰化を盛り込んだ改正道交法が施行された。
「いつ自分が巻き込まれるか」。心配なドライバーの皆さんに向けて、この問題に詳しい明星大心理学部の藤井靖准教授に取材した。加害者の心理、被害に遭わないポイントとは──。
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※本稿は2021年1月のものです
文/堀 晃和、ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2021年2月10日号
■あおり運転『する側』の心理状態
●あおり運転する人は、他者への共感性がすごく低い
「脳の動きがひとつのポイントとしてあります」
藤井靖准教授は10年以上前から「あおり運転」について研究してきた先駆者のひとりだ。
走行中のあおり行為は昔からあった。しかし、これほど社会問題化したのはここ数年のことだろう。
2019年、茨城県守谷市の常磐道で起きた事件は記憶に新しい。高級外車に乗った男が蛇行運転を繰り返した後、走行車線で後続のクルマを停止させ、運転席の男性に暴力をふるった。
男性のクルマのドライブレコーダーで記録された一連の恐怖の映像は、メディアで大々的に報じられ、世間に衝撃を与えた。男は全国指名手配され、傷害などの容疑で逮捕された。
こんな異常な行動を人はどうして取ってしまうのか。なぜここまで激高するのか。
人間の脳には額の部分に「前頭葉」という理性を司る部位がある。藤井准教授によると、前頭葉の抑えが利かなくなると、感情が率直に出やすいのだという。
では、なぜそうなるのか。クルマへの考え方が強く起因している。1)移動手段としてのクルマへの思い入れが強すぎる 2)車内はプライベートな空間──などと感じている人は、「前頭葉に疲れが出た時に、感情や注意力を制御する機能が低下しやすい」という。
前者のケースを考えてみる。早く移動できるはずのクルマなのに、道路事情で思いどおりに進まないとイラっとする瞬間は誰にでも起こりうるはずだ。思い入れが強いために、感情が強く出てしまうということなのだろう。
後者の考察が興味深い。
「そういう人たちにとって車内は自宅にいるような感覚。自分好みに車内を変えたりしています。しかし、運転中は車間距離を取り、サイドミラーで安全を確認するなど『社会的な場面』です。『プライベートな空間』にいながら、いろんなことに注意を向けて運転しているので、前頭葉の感情の制御が疎かになりやすい」
注意機能は、朝よりも疲労が蓄積しやすい夕方に低下する。
「個人差はありますが、あおり運転は午前よりも午後が多かったりします。『クルマに乗ると人が変わる』と言いますが、それは制御する力が低下したことで素の部分が出ている状態なのです」
あおり運転への世間の不安から、2020年6月30日に改正道交法が施行され、妨害運転罪が創設された。
2017年に神奈川県大井町の東名高速で起きた一家4人死傷や常磐道の事件など、あおり運転が続発したことが背景にある。罰則は、最高で5年以下の懲役または100万円以下の罰金。免許は取り消しとなる。
あおり運転を「妨害運転」と規定。急ブレーキや車間距離不保持、急な車線変更など10の違反を対象とした。
警察庁は、あおり運転についてホームページで注意を呼び掛け、「思いやり・ゆずり合いの安全運転」を奨励している。
「思いやり」の精神を持つことは、防止につながる大切なことだが、藤井准教授はこうも指摘する。
「標語としてはいいと思います。ただ、他者への共感性がないと、思いやれない。あおり運転をする人は、共感性がすごく低いということを知っておくべきでしょう」
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