「愛車の面影を求めて」全国から探した想い出のアイシス
震災後、新車も中古車も供給不足だったが、1年半が経過した当時も、中古車の在庫はそれほど多くなかった。アイシスは店頭在庫が1台しかなく、その1台も条件に合うものではない。
そこで、宮城県外のトヨタ販売店にあるアイシスを探した。条件に合うアイシスを、Aさんとパソコンの画面を見ながら1時間以上探した。すると、当時の面影が残るアイシスを発見する。九州の販売店にある在庫車だった。
県外から取り寄せる中古車は、自社在庫と違い、値引きができない。現車確認もパソコンの画面上だけで、輸送費なども別途必要となる。
Aさんにとって負担が増える旨を伝えると、Aさんは「かまわないよ、一緒にここまで探してくれてありがとう」笑顔で答えてくれた。クルマの存在が、人の生活の中で、単なる移動手段以上に、大きな役割を果たしていることを、私はこの時ほど大きく感じたことはない。
契約から1か月後、納車の日。奥様とお子様二人、家族4人で来店されたAさん。九州からやってきたアイシスとは、この日が初対面だ。
さっそく、アイシスと対面してもらう。お子様二人は「アイシスだ」と嬉しそうにクルマに駆け寄る、Aさんは柔らかな表情で、アイシスを見つめていた。また、この家族のもとでアイシスが活躍してくれる姿が想像でき、私も嬉しくなった。
このクルマを探し、販売できたことで、Aさんとアイシスが再スタートを切る。このアイシスも、またAさん家族と共に、多くの想い出を作ってくれることだろう。
東日本大震災で被災したクルマは岩手、宮城、福島の3県で少なくとも24万台にのぼる。
一瞬にしてその思いを奪い去っていく地震と津波。
被災地で見つけた泥まみれでボロボロになり横たわったクルマたち、その一つ一つに、オーナーとの楽しい思い出があったはずだ。
震災から10年という節目を迎える。私は改めて、人とクルマが強い絆で結ばれていることを感じた。クルマを通じて人々が笑顔になり、被災地に元気を与える姿を、私はこれからも数多く見ていきたい。
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