■ヴェルファイアは廃止される可能性が高い
つまり系列化の垣根がなくなると、販売しやすいクルマが好調に売れて、人気のない車種は販売不振に陥るわけだ。
この流れは、2000年代に全店/全車扱いに移行した日産やホンダを見ればわかりやすい。今のホンダの売れ筋は、N-BOX、N-WGN、フィット、フリードに偏り、2020年にはこの4車種が国内で売られたホンダ車の70%を占めた。
日産もデイズ、ルークス、ノート、セレナを合計すると、2020年に国内で販売された日産車の60%以上になる。全店が全車を扱えば、販売格差も広がり、残すべき車種と廃止する車種も自然に明らかになるわけだ。
それでも車種の廃止は、ユーザーにとって、とても悲しいことだ。従って軽々しくはいえないが、アルファードとヴェルファイアの販売格差を見る限り、ヴェルファイアのほうは廃止される可能性が高い。
もともとアルファード&ヴェルファイアのような姉妹車は、販売系列の区分を前提に生まれたから、全店が全車を扱う体制に移行すれば存続させるメリットも乏しい。前述のとおりルーミーの姉妹車となるタンク、ハイエースの姉妹車となるレジアスエース、プロボックスの姉妹車になるサクシードなどもすでに廃止された。
また現時点では用意されながら廃止を公表している車種には、プレミオ&アリオン、プリウスαもある。そうなると国内に残されたトヨタ車は30車種前後だから、当初の車種削減の目的は、すでに達成されつつある。
■3姉妹はノアだけでなくヴォクシーも残るか?
現存する姉妹車で最も目立つのはヴォクシー/ノア/エスクァイアだ。これも販売系列のために用意されたから、1車種に絞るのが筋といえるが、この3車種はデザインがそれぞれ個性的で売れゆきも共存できている。
2020年にはヴォクシー系3姉妹車を合計すると14万1319台が登録され(1カ月平均なら1万1777台)、各車種の販売比率は、ヴォクシーが49%、ノアは32%、エスクァイアは19%であった。
そして現時点でヴォクシーは、5ナンバーサイズの標準ボディを廃止して、エアロパーツを装着した3ナンバー車のZSのみになる。ノアは標準ボディとエアロ仕様の両方を残している(エスクァイアはもともと5ナンバー車のみ)。
この販売バランスを考えると、ヴォクシーはエアロ仕様、ノアは標準ボディとして個性化を図って存続させ、3姉妹に占める割合が最も低いエスクァイアだけは廃止する判断になりそうだ。
エスクァイアの上質な内外装はノアが引き継ぐ。エスクァイアはヴォクシーとノアに比べて歴史が浅く、認知度でも不利になった。
■プリウスとアクアは昨年から販売減少中だが……
ハイブリッド専用車のプリウスとアクアも、売れゆきを大幅に下げた。2019年はプリウス(PHVやαを含む)が小型/普通車の登録台数1位になり、アクアも上位に入ったが、2020年の対前年比はプリウスが54%、アクアは57%で半数近くまで減っている。
コロナ禍の影響もあるが、小型/普通車市場全体の対前年比は12%の減少だから、プリウスとアクアの下落率は他車よりも大きい。
この2車種の不調にも、全店併売が影響した。2020年の対前年比を月別に見ると、全店が全車を扱うようになった5月以降の落ち込みが大きい。2020年7月の対前年比は、プリウスが35%、アクアも38%にとどまった。
全店が全車を扱う前は、例えばトヨタ店やトヨペット店の顧客がコンパクトなハイブリッド車を欲しくなった時、ヤリス(旧ヴィッツ)はネッツトヨタ店の専売だから全店扱いのアクアを買った。しかし今なら設計が新しく、安全装備や運転支援機能の充実したヤリスを全店で購入できる。アクアの登録台数は当然に下がる。
プリウスも同様で、今なら全店扱いの設計が新しいカローラツーリングのハイブリッドも用意される。
トヨタの販売店では「全店で全車を売るようになり、アクアやプリウスのニーズが、ほかのハイブリッド車に分散されている。また今ではハイブリッドが珍しい存在ではなくなり、ハイブリッド専用車のアクアやプリウスにステイタスを感じるお客様も減った」と述べている。
ちなみにカローラツーリングの76%をハイブリッドが占めるので、確かにプリウスのユーザーが移ったこともあるだろう。
そうなるとプリウスとアクアの使命は終わったといえそうだが、プリウスは1997年に世界初の量産ハイブリッド乗用車として発売された。20世紀を代表するトヨタ車が1955年に発売されたクラウンだとすれば、21世紀の初頭はプリウスの時代だった。知名度は抜群に高く、廃止するには惜しい。
アクアも同様で、特にコンパクトなサイズは日本の使用環境に適している。従ってプリウスとアクアは、最先端の低燃費技術を搭載するハイブリッドのスペシャルティカーとして進化させていくのが順当だ。
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