2021年2月上旬、日本へ初上陸を果たした紅旗H9。「(仮ナンバーでの試乗はともかく)中国車に日本のナンバーが付くのか?」と、筆者を含め、多くの人が半信半疑だったと思うが、このたびついに日本のナンバーを取得し晴れて日本の公道を走れるようになった。
TwitterをはじめとするSNS界隈では名古屋ナンバーがついた紅旗H9の目撃報告でにぎわっている。中国の乗用車に日本のナンバーが付く…これがなぜ、歴史に残るくらい凄いことなのか? なぜ今回、紅旗H9でそれが実現したのか?
文/加藤久美子 写真/加藤ヒロト
【画像ギャラリー】中国の上級国民専用ブランドのセダン「紅旗H9」を画像でチェック
■紅旗H9とはどんなクルマ?
「紅旗」を作る第一汽車(FAW)は、「第一」の名の通り、1953年に中国で最初に設立された国有自動車メーカーである。紅旗はその最上級ブランドで1958年に初の乗用車として「東風」と共に発表された。その後、紅旗は現代にいたるまで60年以上、中国国家主席をはじめとする中国の要人たちに愛されてきた。
現在、紅旗には「Lシリーズ」と「Hシリーズ」の二つがある。Lシリーズは重厚で伝統的なスタイルが特徴で、全車に6.0L、V型12気筒エンジンを搭載しているが、ホイールベースの違いによりL5、L7、L9の3モデルが中国で販売されている。このうち「L5」に関しては、近年一般市民でも購入が可能となった。
ただし、日本におけるセンチュリーなどと同様、購入の際には厳しい審査がありディーラーやメーカーから「認められた人」にしか販売されない。
一方「Hシリーズ」は、今回日本に導入された「H9」をトップとする現代的なイメージの高級車で、シリーズ全車が一般購入可能となっている。
印象的な「紅旗」の文字は中国建国の父、第一汽車の創設者でもある毛沢東によるものだ。日本人にとって漢字は身近な存在だが、自動車のエンブレムとしては非常に珍しく、実にエキゾチックで新鮮な印象である。
さらに、紅旗H9には「中国一汽」というメーカーの名前を記したバッジが車両後部に貼り付けられている。これは中国でのお約束で「中国国内で製造されたクルマにはすべて車両後部に漢字で製造社の名称をつける」ことがルールとなっているからだ。
日本と中国の合弁メーカーが中国で生産するクルマにも、「一汽豊田」(第一汽車とトヨタ)、「広汽本田」(広州汽車とホンダ)などの漢字エンブレムがついているわけだが、アルファード、ヴェルファイア(2021年春以降はクラウン・ヴェルファイア)などレクサス含めてこれら日本からの輸入車は中国製造ではないため、漢字のバッジはついていない。
紅旗H9は2020年8月に中国で発表されて以来、大人気モデルとなっており、中国国内で注文が殺到しているという。
■日本への上陸はホントだった。
「紅旗H9が日本で販売される…?」
その衝撃的な事実を知ったのは今年(2021年)1月末のことだった。少し不思議な日本語のコピーと宣伝写真が中国のSNSで話題になっており、「目覚めよう龍魂‼(ドラゴンソウル)」「中国で圧倒的な人気を誇る、あの車! いよいよ、日本上陸」などと記された3枚の画像には、紅旗のロゴが入った価格表もつけられ拡散されていた。(後日これは輸入元が全く関与しない完全な偽物だと判明)
筆者は中国車研究を趣味とする息子とともに、「紅旗H9が本当に日本に上陸するのか?」、「いったい誰が輸入するのか?」、「並行輸入業者か? 日本の会社? 中国の会社?」などを調べることにした。
とはいえ様々探ってみたが、まるで情報がなかった。やはりガセネタか。諦めきれずにいろいろ探していると、今年1月に韓国に紅旗H9が輸入された新華社通信のニュースを見つけ、韓国へも初上陸とのこと。であれば、続いて日本に来るというのは本当なのでは?
ダメもとで中国大使館に電話をしてみたところ…、大阪にある中国総領事館を紹介され、なんと、運よく輸入元の会社につないでもらうことができた。現在日本で出回っている情報の真偽を含め、様々なお話を伺うことができ、その後、タイミングがうまく合致して2月半ばに関西某所で紅旗H9の実車を撮影することができた次第である。
中国最高級車が日本上陸!! その名も「第一汽車 紅旗H9」の圧巻クオリティとは
このとき、「認証が得られてナンバーが付くには2か月以上はかかるでしょう」と輸入元の担当者は話しており、私たちも今か今かとその歴史的な日を待ちわびていた。
そして、連休明けの5月上旬。ついにその日が来た。諸々の検査やテスト、手続きを終えて、中部運輸局名古屋運輸支局にて名古屋ナンバーがついたという連絡を受け取ったのである。
■「紅旗H9」が史上初の快挙となった経緯は?
紅旗H9は、純中国メーカーの乗用車として(調べた限りで)日本の公道を走るための一般ナンバーが付いた初めてのクルマである。もちろん、公道を走れるという点においては大使館用の車両(俗にいう外ナンバー、青ナンバー)が存在するが、こちらは外務省管轄となるため日本の保安基準や車検などほぼ無関係。ゆえにこれは別物だ。
なお、過去、純中国メーカーの乗用車が日本に「輸入」された例はある。しかし、それは研究や展示を目的としたもので公道を走るためのナンバーを取得したわけではない。
日本の公道を走る目的で輸入したものの、ナンバー取得には至らず中国に送り返された車両もあると聞く。
いっぽう、同じ純中国メーカー製のクルマでも商用車というカテゴリーでは、京都市内の路線バスとして活躍中のBYD製電気バスを筆頭に数多くの中国製車両が登録されている。乗用車と違って架装を行うトラックやバスなどは、ナンバー取得の基準が乗用車に比べて緩和されており、乗用車よりはハードルが低い状況がある。
さかのぼると、1980年代前半に北京ジープ(BJ212??)が日本で登録、販売された例もある。
合弁会社の乗用車ということであれば上海ドイツ国民自動車という会社が輸入販売する上汽VW(上海汽車とVWの合弁会社)製の「VWラマンド」(ゴルフ7のセダン版)に京都ナンバーがつけられている。
純中国メーカーの乗用車がなぜ、日本の登録が難しいのか? それは、中国はUN-ECE(国連欧州経済委員会)による協定規則の締約国(58協定締約国)ではないことが最大の理由だ。(認証が必要なパーツに「Eマーク」がついていない)。
しかし紅旗H9については、実際にクルマをぶつけてその安全性を確認する「破壊試験」などで莫大な費用をかけることなく、登録が実現した。これは、メーカーである第一汽車の全面バックアップがあったから可能となった。
メーカーが相応の試験結果や保安基準適合に類する書類を用意して認証が受けられれば、58協定締約国ではなくても日本での登録が可能となるわけだ。
さらに紅旗H9は、開発時点からグローバルでの展開を前提としてきた経緯もあるため、世界基準にも対応できる安全性も担保できていた。輸入元の話によると、苦労したのは灯火類だったとのこと。紅旗H9の灯火類といえば、ドアを解錠すると、グリル周りからカーシランプに至るまでユニークなLED照明の演出も特徴だ。
それらを含めて電気系統の配線がこの上なく複雑だったとのこと。第一汽車から送られてきた700Pもの配線図を一つ一つ確認しながらの作業となった。
■日本での正式発表はいつ? 本当に買えるようになるの??
ついに、日本でのナンバー取得が完了した紅旗H9だが、すでに価格も決定し、日本国内の中国企業などから続々と注文が入っているとのこと。今年2月、最初に入って来た3台に続いて、すでに数台が日本に上陸しており正式発表までのカウントダウンも始まっている。
コメント
コメントの使い方