■ESG、カーボンニュートラルの流れで中長期的にもガソリン価格に上昇圧力がかかる
X氏:「それよりももっと大きいのは、中長期的な問題。原油を作るために必要なおカネの調達が難しくなっているため、構造的に原油価格が上がりやすくなっていること」
筆者:「おかしくないですか? 値段が上がって儲かりそうなところには、普通お金がじゃんじゃん集まるはずなのに。特にこのカネあまりのなかで……」
X氏:「脱炭素の動きが世界的に強まるなか、生命保険、年金ファンドマネージャーなどの他人のお金を預かっているいわゆる機関投資家や銀行は、油田、ガス田・炭鉱などの化石燃料資源関連の会社に投資したり、おカネを貸したりするのは運用者責任、貸し手責任の観点から非常に難しくなっています。
そのせいで、新たに化石燃料資源を開発する資金を調達するのは難しい。そしてこれまでの石油ビジネスでの儲けも、再生可能エネルギーへの新規投資に優先して使われるため、既存の製油設備のメインテナンスに回るカネも最小限になっています。
だから今回のスペインみたいに、不測の事態が起きた時に石油製品をすぐ増産するというのも難しくなってきていますし、生産設備で何か事故が起こればその影響はこれまでよりも大きくならざるを得ません」
筆者:脱炭素が進むと、原油の需要と供給はどうなるのでしょうか?
X氏:「このチャートは、市場関係者が毎年注目している石油メジャーBPの最新レポート“2020年エネルギー見通し”からの引用。黒い点線は“新規に油田開発投資が行われなかった時の原油の予想供給量”。青、オレンジ、緑の線は、原油の予想需要量で、脱炭素の動きが急激に進んだケースが青線、今まで通りに排出し続けた時が緑線、基本シナリオがオレンジの線。
脱炭素が進んでも、石油の使用量をゼロにするわけにはいかないので需要は当然残り続けるが、新たに油田が開発されないと、どんなシナリオでも2045年まで原油の需要超過となり、供給が追いつかないと予想されている。だからESGを理由に新規石油開発関連の投資や融資を行わないと、ガソリンを含む石油燃料の価格はとんでもなく急騰することになるかもしれないですね。
特に日本みたいに原発の多くが止まっていて、再生エネルギー開発も限定的で、化石燃料の輸入に頼っている国は、経済安全保障の面でもより脆弱になってしまうし、ドル高・円安が進んで資源高になれば一気に貧乏になってしまうかもしれません」
筆者:「確かに日本はコロナ禍からはとりあえず抜け出したけれど、経済成長面ではアメリカや中国、欧州に大きく差をつけられていますしね」
X氏:「その通り。アメリカの景気が回復してインフレも進むと、無リスク金利である米国債の金利が上がります。ドルという最強通貨建てで、なおかつ一番安全な資産である米国債のリターンが上がれば、ドル建ての資産が他の通貨建ての資産に対して魅力が高くなるので、ドルが買われ、円安に動く。そうなるとガソリンの価格をはじめ、日本に輸入されるもの全ての値段が上がらざるを得ない。収入が増えずにモノの値段だけ上がれば、日本人は実質的に貧乏になるしかない」
筆者:「日本とアメリカの経済成長の格差が広がれば、日米金利差拡大からの円安でガソリン価格がさらに高騰する原因になるということですね」
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