2代目NSXとR35GT-Rが時を同じくして限定車を発表し注目を浴びた。しかもNSXは7年というスーパースポーツにしては短いモデルライフとなってしまった。画期的なハイブリッドシステムを搭載して登場したというのに、だ。
方やGT-Rはというと幸いにして生産終了のアナウンスこそ未だなされていないものの、限定車Tスペックは14年にわたる進化のいわば到達点というべき内容で、すでに完売御礼のニスモも含め、最新のスーパースポーツに求められる進化レベルであるとはお世辞にも言えない(個人的な好みはさておき)。
さらにはGRによるハイパーカー計画も市販寸前で海の藻屑となった今、スポーツモデル分野における日本車の“限界点”を考える良い機会であると思う。
文/西川淳
写真/トヨタ、日産、ホンダ
■日本車メーカーはもう欧米スーパーカーブランド産を超えるスーパーカーを作ることはできないのか?
スポーツカー好きのみなさんのなかには、これらの日本代表選車たちが今をときめくショーヘイ・オータニ選手の如く、後々世界の頂点を極める進化を果たすと想像されていた方も多いはずだ。
なにしろNSXはフェラーリやマクラーレンよりも早くにハイブリッドV6ミドシップスーパーカーをシリーズ化したわけだし、R35GT-Rに至っては15年前のデビュー以来、国産車として初めて“ツルシ”で、しかも極め付けのユニークさで、世界のトップランカーたちと渡り合ってきたのだから。
そして、GRのハイパーカーだ。ル・マン24時間での圧倒的な強さとテクノロジーを市販車に移植する。これぞ日本のファンが待ちわびていた世界一の国産スーパーカー誕生、になるはずだった(まだトヨタが発売を中止すると正式発表したわけではないが……)。フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンはもちろん、パガーニやケーニグセグとも渡り合える世界の頂点モデルの登場……。嗚呼、残念。
この数年以内に欧米のスーパーカーブランド産モデルを超える国産スポーツカーが誕生する可能性はほとんどゼロになってしまった。もちろん、欧米ブランドの方向性は必ずしも日本車の目指すべき理想とは言えないし、次世代モビリティへの莫大な投資を考えれば限りある企業の資源をある意味“ムダ”な分野にまわしている余裕などないという理屈もわかる。
一方で、そのムダにこそ(日本車または日本に足りないと言われる)文化の発芽があるのであって、そこから生まれる夢や希望がモビリティの裾野を有意義に広げていく可能性も高い。なんならフル電動スーパースポーツのNSXでもセミ自動運転のGT-Rでも良かったのだ。数年先に一縷の望みを託すことはできるのかもしれないが。
なぜ国産メーカーは欧米のスポーツカーを超えるモデルを作り“続ける”ことができないのか。今回はその理由に迫ってみたいと思う。実は至って簡単な理屈だったりするのだけれど。
思い返せば国産の高性能モデルが、その時代の世界に認められたのはR32スカイラインGT-RとホンダNSXが初めてだった。それ以前にも魅力的なモデルは多いけれども、そのほとんどは“今となっては”というべきクラシックカー的ノスタルジーでしかなく、決してその時代の最先端として認められていたわけではなかったし、世界から称賛されたわけでもなかった。
有り体に言って井の中の蛙だった。逆にいうと、BNR32とNA1型NSXは違ったのだ。東の果てからいきなりやってきた、世界レベルの日本車=常識破りの驚愕ロードカーだったのだ。
BNR32はそれまでラリーなど特殊領域にのみ存在した四輪駆動の高性能車を量産ロードカーとして成立させたという点で白眉であったし、NSXもまた“デイリースーパーカー”の元祖としてフェラーリのシリーズモデル開発にも大きな影響を与えている。この二台を足して進化させたならば、例えばランボルギーニに代表される4WDスーパースポーツカーになるといってもいい。
絶大なトラクション性能と日常のライドコンフォート&機能性という点で、今ではスーパーカーに必須の要素をこの二台が世界で初めて世に問うたのだった。
もう一台、忘れてはならないモデルがある。レクサスLFAだ。F1イメージの自然吸気V10サウンドもさることながら、さながら成型方法の百貨店というべきカーボンファイバーテクノロジーの数々がスーパースポーツ界に大きな影響を与えている。
そう、一つ一つの技術とそれを商品に落とし込む経験という点で、日本のメーカーは決して二軍に甘んじていない。スーパースポーツを作る技術は十分、一軍レベルにある。
けれども歴史を紐解いて見れば、過去にも市販されることなく終わった幻のスーパーカーが沢山あった。童夢零、日産MID4、ジオットキャスピタ、ヤマハOX99-11、etc.。いずれも自動車大国となった日本の技術の粋を集めた企画だったはずなのに・・・。そして今、その悪夢が再び繰り返されて。
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