ヤマハがクルマ用のV8水素エンジンを世界初公開
会場では、世界で初めて披露されたヤマハのV型8気筒水素エンジンも注目を浴びた。展示されたパネルによると、このエンジンはトヨタからの委託で2018年に製作。レクサス・RC-Fなどに搭載される5リッターV8 ガソリンエンジンを改良したもので、最高出力335kW(445ps)/6800rpm、最大トルク540Nm(55kg-m)/3600rpmを発生する。
水素エンジン用に改良された部分は、インジェクター、燃料パイプ、シリンダーヘッド、シリンダーヘッドカバー、チェーンカバー、サージタンクなどで、メインブロックはガソリンエンジンと共通だ。
トヨタが仲介し、国産バイクメーカー4社のタッグが実現
さらに、この会見で初めて、「国内バイクメーカー4社が水素エンジンを共同開発する可能性について検討開始した」ことも明らかになった。
事の発端となったのはヤマハだ。元々ヤマハは、トヨタ、デンソー、ケン・マツウラレーシングと5年ほど前からクルマ向けの水素エンジンの開発に携わっている。スーパー耐久の水素エンジンが競技レベルにまでメドが立ったことから、「二輪用もやりたい」と考えていた。
その矢先に、カワサキがトヨタと連携し、二輪用水素エンジンの検討をスタート。トヨタが仲介役となり、ヤマハとカワサキが二輪用水素エンジンの共同研究の可能性について検討を始めることに。その後、ヤマハがスズキとホンダに声をかけ、4社協業が検討されるに至った。
ヤマハの日高社長によると、話が動き始めたのは9月頃で、スズキとホンダに話を持ちかけたのが数週間前。細かいすり合わせをしている時間はなかったものの、共同研究の内容については合意しているという。なお、ホンダは会見に参加しなかったが、これは急なスケジュールによって都合がつかなかったのが理由とのことだ。
協業に関しては、「まだ声かけをした段階」のため、具体的なことは何も決まっていない。今後、各社における技術の取締役やエンジン技術の統括といったレベルの者が集まり、知見を交換していく。
しかし「エンジンは競争領域、メリハリをつけて進めていきたい」と日高社長は話す。つまり、カワサキが培ってきた水素用の燃料タンクを筆頭に、エンジンに燃料を供給する配管関係、吸気デバイスといった周辺技術は共同研究するものの、従来通りエンジン本体は各社の持ち味を活かした競争領域になる模様だ。
各社の単独研究では実現する見通しが立たない。それほど水素エンジンは未知の技術と言い換えることができる。
移動の足は電動、趣味性が高いバイクに内燃機関を残したい
水素エンジンは、250cc以上の趣味性が高いバイクへの採用を想定している。125cc以下のコミューターバイクは、走行距離やパワーよりも実用性が重視されるため、ユーザーも電動化を受け入れやすい。一方、それ以上のクラスでの電動化は難しい部分があるという。
「大型になるにつれ、バッテリーを積むスペースが必要になる。現在のエンジンスペースにバッテリーとモーターを組み込んだとしても重くなり、エネルギーも必要になる。今のユーザーがなぜ趣味のバイクに乗っているのか考えると、この領域は電動化が難しい」(日高社長)
また、社内に“内燃機関推し”の技術者が存在し、内燃機関に関連したサプライヤーも多い。4社で共用する部品も多く、協業することのメリットはサプライヤーにも大きい。そこで、バイクに内燃機関を残す可能性を追求する手法の一つとして、水素エンジンが選ばれた経緯もある。
「企業としては2050年にカーボンニュートラルを目指すと発表しているが、その一方で社名に“発動機”と入る我々は内燃機関への思いも人一倍強い。水素エンジンはそれを両立できる可能性を秘めている」(日高社長)。さらに、水素エンジンを研究することで、合成燃料やバイオ燃料などのカーボンニュートラル燃料対応エンジンの開発ハードルが下がると述べた。
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