■EDRで何がわかるのか? ドライブレコーダーみたいなもの?
「EDRって何?」と聞かれた場合、自分は「わかりやすく例えるなら航空機のフライトレコーダーのようなものです」と答える。すると必ずと言っていいほど、「ドラレコと何が違うの?」と聞き返される。
その時、自分はこう答えている。「ドラレコは映像と音声の双方を記録できるけど、EDRはプライバシー保護の観点から映像や音声は記録しないです」。
すると「えっ? 何それ?」とくるので、さらにこう付け加える。「EDRは、ドラレコじゃ記録できない車両の実際の作動状況などを常に監視しています」。
「事故が起きた場合には、発生5秒前からの車両の作動状況(データ)を保存できます」というと、さらに顔を斜めにして、「どういうこと?」となるので、「ドラレコの映像や音声は確かにわかりやすいのですが、例えば、「オレはちゃんとブレーキを踏んでいた」とか「そんなにスピードは出してない」って言っても、ドラレコでは証明できないですよね。あくまでもその人の主観だし、曖昧な記憶でもあるわけです。
相手方がウソを言っている可能性だってある。でも、EDRに記録されたデータは事故時の車両の状態を客観的に記録したものだから、そこに含まれている多くの情報から、ドライバーがいつ、どういう操作をしていたのか、ということがわかるし、裁判などでも客観的な証拠として使うことができる。
このような感じで「EDR」と「ドラレコ」の違いを話していくのだが、最後にはこう付け加えている。「自らの潔白をより万全なものにするには、ドラレコのデータと併せて、客観的な車両の作動状況を記録したEDRのデータ、これら双方のデータが揃っていたほうが、より正確かつ客観的な証拠として活用できます」。ぜひ、みなさんもこのことは覚えておいてほしい。
補足として現行カローラツーリングの取扱説明書にはEDRの説明があるので紹介しておこう。これを見ると、車両データの記録について以下のように書かれている。
「おクルマにはイベントデータレコーダー(EDR)が装備されています。EDRは一定の衝突や衝突に近い状態(SRSエアバッグの作動および路上障害物との接触など)が発生した時に車両システムの作動状況に関するデータを記録します。
EDRは車両の動きや安全システムに関するデータを短時間記録するように作られています。ただし、衝突の程度と形態によってはデータが記録されない場合はあります。
EDRは次のようなデータが記録します。
・車両の各システムの作動状況
・アクセルペダルおよびブレーキペダルの操作状況
・車速
これらのデータは衝突や障害が発生した状況を把握するのに役立ちます」。
これに加え、注意と書かれているのは以下の通り。
「EDRは衝突が発生したときにデータを記録します。通常走行時にデータを記録します。通常走行時にはデータは記録されません。また個人情報(例:氏名・性別、年齢・衝突場所)は記録させません。
ただし、事故調査の際に法執行機関などの第三者が通常の手続きとして収集した個人を特定できる種類のデータとEDRを組み合わせて使用することがあります」。(詳細は画像ギャラリーから)。
■池袋暴走事故は、EDRでどこまでわかったの?
「池袋暴走事故」の裁判でもこれまで通り、多くの状況証拠が集められ、それらを検証、解析して裁判が行われている。「EDR」に関していえば、実際に事故を起こした車両の「EDR」に記録されたデータの読み出しと解析が行われた。
判決文を読むかぎり、「アクセル開度」「ブレーキ圧」「車速」「イグニッション回数」などのデータが、加害者側弁護人の指摘に対する検証資料(証拠)として用いられていた。
結論を言うと、「EDR」に記録されたデータの解析結果は明解だったようで、「アクセルペダルが最大限まで踏み込まれていた」、加えて、「ブレーキペダルが踏まれておらず待機状態にあった」と記されており、さらに、「弁護人が指摘するような可能性をうかがわせる事情は証拠上一切認められない」(いずれもカッコ内は判決分から引用)と、「EDR」のデータが示す客観的な事実を証拠として認定しているのだ。