自動車メーカーがクルマを生産し、ユーザーに販売するわけだが、そのすべてを公表するわけじゃない。なかにはわざわざ公表したくない、あまりよくないことだってある。
それはコストのためであったり、究極的に燃費をよくするためにある部分を犠牲にしたり。なかには明らかにユーザーをあざむく忖度もあるかもしれない……。
そんなメーカーが公表したくないことを、しがらみ一切なし、清廉潔白なモータージャーナリスト・渡辺陽一郎氏が公表しちゃいます!
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーWeb編集部
■実用燃費よりもJC08モード燃費を重視してセッティングを行う
商品には、ユーザーのメリットよりも、数多く売ることを優先する場合がある。クルマでは、代表的なのが燃費数値だ。環境負荷の低減も含めて、最も大切なのは実際に車両を走らせた時の実用燃費だが、ユーザーが購入時に実車で燃費テストをすることはない。
カタログに記載されるJC08モード燃費(今の新型車ではWLTCモード燃費が使われる)を見ながらライバル同士で比較する。
そうなるとメーカーも、実用燃費よりもJC08モード燃費に有利なセッティングを施す。JC08モード燃費と実用燃費はおおむね比例するが、ギリギリのところでは、JC08モード数値を優先させる。
エコカー減税の影響も大きい。燃費基準の達成度合いに応じて減税率が決まるため、JC08モード燃費が0.1km/L違うだけで、購入時に納める自動車取得税や同重量税が変わることもある。燃費数値の良し悪しが、燃料代に加えて税金にまで影響するとなれば、ユーザーが神経質になるのは当然だ。
本来廃止すべき税金を残しながら、もう片方で減税を施す矛盾した自動車行政が、クルマのエンジン制御まで歪めている。
■燃費数値を向上させる目的で燃料タンク容量を減らす
燃費数値を向上させるために、燃料タンク容量を小さく抑える場合もある。タンク自体を軽くするのではなく、容量だけ小さくして、満タンにした時にガソリンが入る量を減らすことも多い。
その理由は燃費の計測方法だ。燃費は満タンにして測るから、燃料タンク容量を1L小さくすれば、車両重量の数値を750g前後抑えられる。これによって等価慣性重量の設定区分が変わると、燃費数値が向上するのだ。
クルマの燃費はシャシーダイナモメータで測るが、この時には車両重量による慣性を再現するためフライホイールを使う。フライホイールは、車両重量に応じて重さの異なる数種類が用意され、この重量を等価慣性重量と呼ぶ。
等価慣性重量が軽いと燃費数値も好転するため、例えばホンダフィットの場合、JC08モード燃費が37.2km/Lに達するベーシックなハイブリッドは、燃料タンク容量がほかのグレードよりも8L少ない32Lになる。これにより車両重量を1080kgに抑え、等価慣性重量を1130kgとした。車両重量が1081kgになると、等価慣性重量は一気に1250kgまで増えるから、燃費数値が見かけ上は大幅に悪化してしまう。
マツダデミオも大半のグレードは燃料タンク容量が44Lだが、クリーンディーゼルの6速MT仕様は35Lに減らして車両重量を1080kgに抑えた。JC08モード燃費は30km/Lに達する。
トヨタプリウスは、大半のグレードが燃料タンク容量を43Lとするが、Eだけは38Lだ。装備も簡素化して、車両重量を先に述べた1080kgの2つ上の設定区分になる1310kgに抑えた。これによりJC08モード燃費は40.8km/Lとなった。
ちなみに等価慣性重量の上限になる車両重量は、740kg/855kg/970kg/1080kg/1195kg/1310kg/1420kg/1530kg……、という具合に続く。車両重量が上記の数値になる場合、等価慣性重量に着目した「燃費スペシャル」の可能性が高い。
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