日本では、むやみに鳴らすことはあまりないクルマのホーン(クラクション、正式には警音器)。
信号待ちで前のクルマが青信号になっているのに気が付かない場合や自転車や歩行者が多い駅前や商店街のようなところで、やむなくホーンを鳴らす……、譲ってくれたクルマに対するお礼に鳴らす場合など、そんなシーンが思い浮かぶ。
この何気なく存在しているホーンですが、実際なければ困る重要なクルマの装備です。ではホーンがどのように鳴るか、どのような種類があるか…というと、なかなか知っている人も少ないのでは。
このホーン、皆さまご承知のとおり、法律で、音量や音色、使い方までしっかりと決められております。ではどのように決まっているのか。なにげなく使っている「あれ」、実は違法なんです。そこらへんを、モータージャーナリストの岩尾信哉氏がきっちり解説します。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWeb編集部、ミツバサンコーワ、丸子警報器、宮本警報器、ボッシュ、Adobe Stock
■ホーンの構造や種類をかんたん解説
ホーンは正式には警音器という。実に前時代的でお堅い言い回しだ……。警音器は電気的に磁力などを使って音を発生させ、周囲に自車の存在を知らせて危険を回避するための装置だ。
当然ながら国際規格が定義されていて、国連欧州委員会(UN/ECE)の多国間協定で定められた自動車の構造や装置に関する規則には警音器の項目があり、日本の警音器の保安基準もこれに則って定められているが、法律上の規格が想像以上に明確に定義されていることはよく知られてはいないだろう。
ここでホーンの構造や種類について、簡単に概略を説明すると、形式には主に平型と渦巻き(トランペット)型があり、基本的に軸部分に設置された金属製のシャフトとポールと呼ばれる電磁石が細かく動くことによって、これに接続された金属製の振動板の動きが共鳴板を介して音を生みだし、空気を伝わって聞こえている。
ホーンの装着数は1/2個とされ、2個の場合はそれぞれの周波数が異なるように設定して、音色に広がりなどを与え、音の高低を示す周波数は320~700Hzから選ばれる場合が多い。
個人的には音圧にもよるが700Hzの高めの周波数の音色は、耳に触る「騒音」一歩手前に思えてしまうが、車両の周囲の人々にホーンに気づいてもらえなければ、機能として意味を成さないのだが……。
■法律で厳密に決められている。もちろん「メロディ」は禁止!
日本の法律では警音器について、道路運送車両法第三章に保安基準として第43条に定められているので、噛み砕きつつ抜粋して紹介すると、
警音器の装着義務を規定したうえで、「自動車の警音器は、警報音を発生することにより他の交通に警告することができ、かつ、その警報音が他の交通を妨げないものとして、音色、音量等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない」としている。
加えて「車外に音を発する装置であって警音器と紛らわしいものを備えてはならない」と注意したうえで、「歩行者の通行その他の交通の危険を防止するため自動車が右左折、進路の変更若しくは後退するときにその旨を歩行者等に警報するその他の装置または盗難、車内における事故その他の緊急事態が発生した旨を通報するブザーその他の装置についてはこの限りでない」と厳密に例外を定義している。
気になるホーンの音色については「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」〈第三節〉の「第219 条(警音器)」では「警音器の警報音発生装置の音が、連続するものであり、かつ、音の大きさ及び音色が一定なものであることとする」とし、保安基準に“適合しない”ものとして「音が自動的に断続するもの」「音の大きさまたは音色が自動的に変化するもの」「運転者が運転者席において、音の大きさまたは音色を容易に変化させることができるもの」としている。
必要な性能としては「警音器の音の大きさ(2個以上の警音器が連動して音を発する場合はその和)は、自動車の前方7mの位置において(音圧レベルが)112dB以下87dB以上であること。サイレンまたは鐘でないこと」と定義されている。ちなみに、資料によれば130dBを超えると騒音として“肉体的に苦痛を覚える”レベル(作動中のジェットエンジンの側にいる感覚)になるという。
ここまで説明すれば「ああ、あれはダメだな」という声が聞こえてきそうだ。あの“有名な映画のゴッドファーザーのメロディはもとより、派手に響く音色(というかメロディそのもの)を、圧縮空気や電気的なメカを使って奏でる製品(通称“ミュージックホーン”と呼ぶらしい)は、一般道では見事にアウトとなるわけだ。
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