欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、大型トラックによるCO2排出量を「2040年以降は90%削減」などとしたCO2排出基準の提案を行なった。従来より踏み込んだ野心的な提案だが、数か月前に排ガス基準の「ユーロ7」提案を行なったばかりで、一貫性の無い規制には批判もある。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真・表/European Union
2030年に45%、2040年以降は90%のCO2削減
2023年2月14日、欧州委員会は2030年以降の大型車の二酸化炭素(CO2)排出基準に関して野心的な提案を行なった。「90%削減」まで求める今回の提案はかなり踏み込んだものであり、純粋に輸送セクターにおけるCO2の削減を目指したものとみられる。
対象となるのは「大型車」(HDV = Heavy-Duty Vehicles)と総称されるトラック、都市バス、長距離バスだ。
これらの車両だけで欧州全体の温室効果ガスの6%を排出しているとされ、これは道路輸送による排出量の25%に相当する。EUの環境目標および汚染物質ゼロ目標の達成を確実とするためには、このセグメントにおけるモビリティのゼロエミッション化が不可欠だ。
欧州委員会の提案はほぼ全ての大型車の新車に対して、より厳しいCO2排出基準への移行を求めるもので、2019年の水準に対するCO2の排出削減量は次のようになっている。
・2030年から2034年までの期間:HDVのCO2排出量を45%低減
・2035年から2039年までの期間:HDVのCO2排出量を65%低減
・2040年以降:HDVのCO2排出量を90%低減
また、都市部でのバスのゼロエミッション化を推進するため、2030年までに都市バスのCO2排出量の100%削減を提案した。
欧州グリーンディールとリパワーEU
この提案の狙いは、「欧州グリーンディール」と「リパワーEU」の目標達成に向けて、輸入に依存する化石燃料の需要を減らすとともに、EU域内の輸送セクターにおけるエネルギー効率の更なる向上を通じて、エネルギーの移行を促すというものだ。
欧州の運送事業者とその利用者は、燃料コストや総保有コスト(TCO)の削減により利益を得るほか、エネルギー効率の高い車両がより広範囲に展開されることで欧州の大気の質が改善され、特に都市部においては欧州市民の健康が向上するとした。
なお、欧州グリーンディール(European Green Deal)とは、環境問題を欧州と世界の存立にかかわる重大な事態と捉え、EUとしてこの問題に優先的に対処するという環境・経済戦略だ。環境政策を通じて近代的で資源効率に優れ、経済競争力のあるEUへの変革を目指している。
具体的には2050年までに欧州全域でのネットゼロを実現し、史上初の環境ニュートラルな大陸になること、資源の消費に依存しない経済成長を実現すること、どのような人も地域も取り残さないことなどを掲げている。
いっぽうリパワーEU(REPowerEU)はロシアによるウクライナ侵攻と、それによるエネルギー価格の高騰を受けて、主にロシア産の化石燃料への依存から脱却し、グリーンエネルギーへ移行するというエネルギー移行計画だ。
輸送セクターは欧州のクリーンテクノロジー産業を支えるとともに、国際社会における競争力を強化するための重要な分野となっている。
EUはトラック・バスなど商用車の分野では世界市場をリードしており、CO2の排出基準で共通する法的な枠組みを設定することは、将来においてもその地位を確約するために必要な措置とした。また、EUが革新的なゼロエミッション技術に対して長期的に継続して投資を行ない、インフラの普及を強力に推進するという明確なシグナルでもある。