ミツオカの創業50周年を記念して登場した「ロックスター」は、1960年代のC2コルベットを彷彿させるデザインで大ヒット。限定200台で発表した直後から注文が殺到し、すでに完売してしまった。
このクルマをデザインするとともに、全体の責任者として開発を引っ張ってきた光岡自動車の青木孝憲氏に話を伺った。
※本稿は2019年2月のものです
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年3月26日号
クルマだけでなく、ユーザーもロックスターなんです
ベストカー:C2コルベットをモチーフに選んだのは?
青木孝憲氏(以下青木):最初からC2をモチーフにするつもりはなく、アイデアスケッチの模索のなかで出てきたものですが、僕自身あの時代のアメ車が好きなんです。C2は中学生くらいの時に見て、なんて美しいクルマだと思った記憶があるんですよ。でも、大人になって実車を見るとデカいのなんの。「こんなんだったっけ?」みたいな感じがあって、僕の記憶のなかのスケール感とかたたずまいで作ってみたいと思ったんです。
ベストカー:苦労した点は?
青木:苦労は感じてなくて、作る時はいつも楽しいんですよ。でも気をつけたのは、当時のアメ車のイメージをそのまま持ってくるだけで終わらせず、ノスタルジーな雰囲気を、今のカーデザインの流行りを入れて再現することでした。
また「デザインしすぎないこと」にも気をつけました。理屈っぽく、自動車デザインの文法に則ってやりすぎるとつまらなくなる。歌手のロックスターでたとえると、晩年のアルバムよりも若手時代の荒削りなファーストアルバムにするという感覚です。
例えばクレイモデルを作る時に、ある部分のRをなでるとしっかりした陰影ができるところをその寸前で止めておく。そうして、あえて雑味を残しておくのがファーストアルバムの感覚なんです。
ベストカー:特にこだわった点は?
青木:C2コルベットは日系のラリー・シノダという人がデザインしたんですが、本当はリトラクタブルランプにしたくなかったはずだと思っています。機能上しかたないので付けたけど、案の定ランプを出したら格好悪い。でも、今の技術ならLEDで小さくできます。そうするとヘッドランプの意匠が認識しにくいんですよ。
大手メーカーさんのクルマは、つり上がった大きな目でランプの印象がかなり大きい。そうすると顔の印象がそこで決まっちゃうんです。「ロックスター」は顔の印象をヘッドランプではなくボンネットとフェンダーにしたかった。当時のデザイナーも本当はそうしたかったんじゃないかと思うんですね。できればヘッドランプもナンバーも付けたくないんですけど、そうはいきませんから(笑)。
ベストカー:売れゆきの印象は?
青木:予想以上の反響で驚いています。特に今までミツオカと縁のなかったお客様が多いこと。ストレートにスタイリングとコンセプトがお客様に刺さったのはびっくりしましたね。
ベストカー:主なユーザー層は?
青木:リアルタイムにC2コルベットを見ていた50~60代がメインですね。僕は今43歳なんですけど、50~60代の男性が抱く「もういいだろう。好きにさせてくれよ」という気持ちが少しわかるようになってきたんです。仕事も家庭も頑張ってきて、子どもも大きくなって手を離れてきたと。そういう年代にさしかかった時の「もう好きにさせてよ」という気持ちがわかるようになってきて、その思いを「ロックスター」に込めています。たぶん、そこに共感していただいているのかなと思いますね。
ベストカー:「ロックスター」というネーミングが最高ですね。
青木:そう、最高なんです(笑)。はじめは「タイプカリフォルニア」みたいな優等生ぶった名前をつけて開発を進めていたんですけど、2017年の年末にオールディーズロックのライブを観にいって変わりました。観客席のおじさん、おばさんたちがノリノリで歌って踊って、本当にいい笑顔で心から楽しんでいるんです。みんな青春時代の少年少女に戻ってるんですよ。
本来、スターというのはステージ上の人たちのことだけど、それを見ていたら「あなたたちもスターだよ」と感じたんです。普段は社会性を持って大人の生活をしているけど、ちょっとしたきっかけで解放されて素に戻る。「それこそロックスターだぜ!」と感じて、彼らに捧げたいと思ってこの名前にしたんですよ。クルマだけでなく、ユーザーも含めて「ロックスター」なんです。
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