梅雨も終盤にさしかかり、梅雨末期の豪雨などに遭遇した時に視界を確保するのにしっかりとメンテナンスしておく必要がある保安部品がワイパーブレードだ。
鉄道車両、船舶、長距離用を含むトラック、観光バスに装備されるワイパーブレードの守備範囲は幅広く、雨の日の安全を確保するための必須アイテムである。
だがその割りに自分のクルマに関しては、日頃はメンテナンスがおろそかになりがちだ。
そして気になるのは、コーティング剤などがこれだけ普及しているにもかかわらずワイパーは消え去る気配さえなく、ワイパーの代わりになるものがいまだにないということ。
そこで、身近な存在であるワイパーの成り立ちについて、寿命や取り付け方法を確認するとともに、まだワイパーの代わりになるものはないのか、現在、どのように進化を遂げているのか探ってみた。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWEB編集部 Adobe Stock
ワイパーブレードの基礎知識とバリエーション
1910年代に米国で生まれたとされるワイパーブレードは、モーターとリンクで動くワイパーブレードとウィンドウ表面を払拭するワイパーラバー(ゴム)で構成される。
ちなみに、ワイパーラバーはガラス表面から水を完全に取り去るのではなく、表面に薄く均一な水の膜を形成することでガラスを通過する光の屈折率を整えて、良好な視界を確保する。
可動部の動きにより、ラバーにかかる圧力をガラスに均等に伝えることで雨や雪を取り払う。

まずは形状で分別していくと、トーナメント型は純正用品としてはおなじみの製品だ。
ラバー部を支えるフレームの形状がスポーツ競技会のトーナメント表に枝分かれしていることから名付けられた。
大型フレームに小型フレームをいくつか組み合わせて、ガラスへの圧着力を確保する。廉価モデルを中心に最も多くの車種で採用されている。
現在主流となりつつあるフラットワイパーは、ブレード(フレーム)とラバー部が一体化したタイプ。ゴムで覆われた芯軸を採用して、先端から後端までフラットかつ単純な構造を採るため、圧力が均等にかかるため払拭性能が高く、また走行風の影響を受けづらく、風切り音を抑えられる空力性能や高速走行での払拭性能が優れている。
“見た目性能”の向上を狙った製品としては、樹脂製カバーなどを与えたエアロタイプ(フレーム形状はトーナメント型が主流)が増えている。
湾曲したバネ部分をゴム/樹脂製カバーで覆うなど、走行風を整えて浮き上がりを抑制する効果を持つとされ、標準仕様ブレードと同等の性能を得ている製品もある。
加えておけば、ワイパーには当然ながら雨用と雪用があるが、冬期の低温に対応して、冬用はワイパーブレード全体をゴムで覆った形になっている。
ブレードを曲がりにくく設計、かさばる雪を落とすことに配慮している。ラバーの材質や取り付け部の長さを多く仕立てるなどの変更が施されている。
払拭性能を向上させたコーティングラバー
新車時に装着されているワイパーのラバー部の多くには、天然ゴムと天然ゴムに塩素系有機材を配合した素材が使われている。
天然ゴムは払拭性能には優れるが耐久性では有機材料のクロロプレンを配合したラバー材に劣り、後者は耐久性などバランスのとれた性能が特徴。
ワイパーのラバー部に関しては、熱や紫外線/オゾンによる劣化に強い素材の開発が進められている。
現在アフターマーケット製品では、表面加工により払拭性能や耐久性などの商品性をアップしている。
交換時期はラバー部分が6カ月、ブレードが1年!
耐久性については、最もスタンダードなワイパー(トーナメントタイプ+天然ゴムの組み合わせ)では、最適な形状を維持できる期間が6カ月~1年程度とされている。
交換に関しては、ラバー部分は6ヵ月毎、ブレードは1年毎の12カ月点検時が目安になる。
グラファイト表面加工と撥水ワイパー

ブレードの払拭性能を高めるコーティング手法の代表例としては、“グラファイト表面加工”が挙げられる。
グラファイト(黒鉛と呼ばれる炭素微粒子)ワイパーは、摩擦抵抗が小さい炭素微粒子をラバー部の表面にコーティングを施して、ガラス表面との摩擦抵抗を抑えることで滑らかな動きを実現する。
グラファイト加工のワイパーブレードは、3~6ヵ月の耐久性をもつ、いわゆる「フッ素コーティング剤」の塗布と組み合わせられるので、アフターマーケットでは売れ筋になっているようだ。

いっぽう、“撥水ワイパー”と呼ばれるブレードラバー部にシリコン表面加工が施されたワイパーは、純正品として新車時に設定される天然ゴムワイパーに対して、撥水効果が高められている。
シリコンオイルを付加したラバー部を動かすことでガラス表面に撥水被膜を形成する、いわゆる「シリコンコーティング」を施すことができる。
撥水コーティング剤は水分を強制的に排除するため、ワイパーが「から拭き状態」になる。このときラバー部との摩擦抵抗が大きくなり、「ビビリ」「拭きムラ」を発生させる。
これにより撥水効果が低下して、コーティング被膜のはがれも起きやすくなるという。撥水コーティング剤が塗布されたウィンドウ用ワイパーであれば、これを防ぐことができる。
コーティング剤に対して撥水ワイパーが使い勝手に優れているのは、撥水コーティング剤は期間を経れば当然ながら塗り直しが必要になるが、撥水ワイパーは動かすだけでフロントウインドウのコーティングが完了する簡便さとともに、払拭性能をより長く維持することができる。
撥水コーティング剤を塗布すると、ワイパーのゴムの種類によっては「ビビリ」が発生したり、コーティングが剥がれてしまうことがあるが、撥水ワイパーであればそのような心配はない。
主なワイパーブレードの製品と価格
ここで具体的なアフターマーケット品のワイパーの価格について追ってみよう。代表的なメーカーとして選択したのは、まずは日本のワイパーメーカーのトップといえる日本ワイパーブレード(以下NWB)。
純正採用率トップシェアを誇るワイパー専業メーカーだ。輸入車用では、おなじみドイツの大手部品メーカーのボッシュは現在主流になっている後述するフラットワイパーを生み出すなど、欧州メーカーをはじめとして高いシェアを誇る。
対して、ヴァレオはワイパーシステムで世界トップシェアのメーカー。日本では同社傘下の市光工業のPIAAを通じてアフターパーツの販売も実施している。

価格の幅としては、500円程度の海外製品から、撥水コート製品が2000円程度、なかにはエアロタイプなど見栄えに配慮した3000円を超えるような“高級品”まで、相当な幅がある。
基本はオープン価格だが、参考までに某ショッピングサイトなどを見てみる、総じて3社の製品をシリコンコートの撥水製品の価格を丸めて比較すると、ボッシュ:1600~2200円、PIAA:1400~2700円、NWB:1800~3000円などとなっている。
ボッシュの各製品の価格幅が他の2社に比べ抑えられているように感じられるのは、海外でのアフターマーケットでの価格が、販売数の多さの影響なのか、日本の市場よりも低く設定されていることが考えられる。
ちなみに、前述した撥水タイプのガラスコーティング剤「ガラコ」でおなじみのソフト99コーポレーションが販売する、グラファイトにフッ素コーティングを施した撥水タイプのワイパーの上記同様に調べた参考価格幅は900~2000円とされている。
ワイパーブレードの外し方と交換方法

ワイパーブレードを自分で交換する際は、ウェブサイトなどで自車用製品に関する適合表を確認したうえで、事前に取扱説明書などで交換手順を頭に入れておく必要があるが、ここで交換の手順を簡単に確認しておこう。
まずフロントウインドウのワイパーブレードの取り付け部分の位置に厚く折りたたんだタオルなどを置いておこう。ワイパーアームが不意に倒れた時などに、ガラスを傷つけてしまうことのないように保護しておくためだ。
ワイパーを立てた後、ワイパーアームとワイパーブレードの取り付け部分の裏側に備わるストッパー器具を押しながら、慎重に下方向にスライドさせて取り外していく。
ワイパーブレードを取り外した後には、ワイパーアームを立てたままにせず、用意しておいたタオルの上に置いておく。
新しいワイパーブレードを用意した後にワイパーアームを立ちあげて、外した際の逆の要領で上方向にスライドさせて、クリック感とともに「カチッ」といった音が発するまで差し込む。
取り付け時には、スイッチ状の部分は固定に関わっているので触れないように注意したい。
最新ワイパーはブレードやアームからウォシャー液を噴射!
さて、最新ワイパーはどうなっているのか? 進化しているのか?
まずヴァレオが開発した「アクアブレード」は、2013年モデルのメルセデスベンツ SLクラスに初採用され(現在はSL AMGのみ)、メルセデスのSクラスクーペ/カブリオレやGLS、ボルボ60シリーズ、シトロエンC4カクタスなどに採用されている。

ボッシュが開発した「ジェットワイパー」は広範囲にわたってブレードから噴射する「アクアブレード」とは違い、ワイパーブレードを支持するワイパーアームからウォッシャー液を噴出するのが特徴で、ボルボXC90などに採用されている。

アクアブレードではブレード内部に設けられた通水路を通して、両側に設けられた複数の噴射孔からウォッシャー液を、ワイパーの動きに合わせてフロントウインドウに直接噴出する機能を備える。
ガラスの汚れ具合、温度、風速などの運転状況に応じて自動的に噴射量を制御する。
ウォッシャー液はワイパーブレードの作動方向の前方に直接噴射され、センサーを利用してワイパーの位置を正確に検知してウォッシャー液が適正なタイミングで吹きかけられることで、ブレードによって瞬時にウォシャー液を拭き取ることができる。
従来のノズルから吹きかけるシステムと異なり、アクアブレードではフロントウィンドウ全体に広がったウォッシャー液によってドライバーの視界を妨げることがなく、運転時の安全性を高められ、ウォッシャー液の使用量を半減させることでシステムの重量を軽量化できるという。
ワイパーの代わりになるものは100年たってもなぜ出てこない?
1903年に現在の形になってから100年以上も経つのになぜワイパーの基本構造は変わらず、いつまでたってもワイパーのままなのか?
一つの光明が見えたのは2013年にマクラーレンがワイパーに代わる新しい技術として、超音波振動による撥水装置を2015年までに同社のスポーツカーに装着すると発表したが、いまだに装着されていない。
また旭硝子とトヨタが、高周波による撥水装置の特許を出願しているが、これも実用化されていない。
高周波撥水装置は、高周波でガラスを振動させることにより、ガラス面上の小さい水滴を集めて大きな水滴に変え、その自重で落下させたり、走行による風圧で弾き飛ばしたりするというというもの。
実用化されている仕組みとして近いのは、最近のデジタル一眼レフカメラなどに搭載されている、CCDなどの汚れを超音波振動により落とす仕組みだ。
「現在のワイパーに変わるものが発明されたらノーベル賞モノ」と言われるように、これらを見るかぎり画期的な新技術の開発は至難の業ということがわかる。
アクアブレード、ジェットワイパーにしても普及するにはコストの問題が予想されるので、普及するのにはほど遠い感じがする。
当分は、ワイパーそのものが進化を続けるということになりそうだ。