2021年8月8日、東京オリンピック2020が閉会式を実施し、幕を下ろした。これからパラリンピック2020が開催されるわけだが、ひとまずテレビで五輪関連のCMが流れる機会は減るだろう。
そのいっぽうで、今回の五輪開幕前には、トヨタ自動車がオリンピックに関連したテレビCMを見送ったことが大きな話題となった。自動車業界にとってテレビCMは有力なマーケティング手段であり、オリンピックのような巨大イベントと自動車販売の親和性は高い。トヨタがオリンピックに資金を出す理由やCMを取りやめた背景について、五輪が終わったいま、ゆっくり探ってみたい。
文/加谷珪一(経済評論家)
写真/ベストカーWeb編集部、TOYOTA
■自動車ビジネスのカギを握るのはマーケティング
トヨタは2021年7月19日、東京オリンピックにおいて関連のCMを放送しない方針を明らかにした。一部の人は内容を誤解しており、CMを一切放送しないと解釈したがそうではなく、オリンピック専用に制作したCMは放送しないという意味である。実際、オリンピック中継番組でもトヨタの「商品CM」は流されていた。
だがトヨタのような企業にとって(特にマーケティング部門にとって)、オリンピックのような巨大イベントは、まさに「かき入れ時」である。自動車という商品は移動手段という側面と嗜好品としての側面の両方があり、マーケティングの力量が業績を大きく左右する。
世界の自動車メーカーのお手本であり、トヨタも多くを学んだ米ゼネラルモーターズ(GM)は、投資銀行主導で複数の自動車メーカーを統合して作り上げた企業である。もともと別会社だったこともあり、それぞれの車種には明確なブランドが確立しており、統合後のGMもそれを引き継いだ。
GM中興の祖と言われるアルフレッド・スローン社長が確立した事業部制は経営学(組織論)の世界では、もっとも重要な理論のひとつとなっているが、バラバラだった企業を統合したGM設立の経緯と、それに伴うマーケティング上の特性も大きく影響している。
トヨタはGM流のマーケティングを導入したことから、日本においてもクルマというのはある種のステータス・シンボルとなった。戦後は乗用車が急激に世帯に普及したことから、クルマというのは超高級品から誰もが購入する究極のマス商品に変貌した。
このためクルマを上手に売るためには、その車種がどのような属性の人に向けて開発されたのか、スペックだけでなくイメージや情緒も交えた形で、広くメッセージを行き渡らせる必要がある。自動車メーカーが多額の費用をかけてテレビCMを打ち、しかもCMの中に「家族」「誇り」といった抽象的な要素を多分にちりばめているのはこうした理由からである。
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