世界に愛されたプリンセスの運命の3日間「スペンサー ダイアナの決意」いよいよ公開!!

■監督が思い描いたダイアナの葛藤の3日間

冒頭で描かれるのは、ひとりで車を運転し、道に迷うダイアナ。なんとも象徴的な場面だ(Pablo Larrain)
冒頭で描かれるのは、ひとりで車を運転し、道に迷うダイアナ。なんとも象徴的な場面だ(Pablo Larrain)

 さて、そこで、今回ご紹介するのは、そのダイアナの苦悩を描いた『スペンサー ダイアナの決意』。ダイアナがチャールズとの離婚を決意し、王室から自由になることを選んだに違いないある年のクリスマスの3日間を描いた作品だ。

 タイトルの『スペンサー』は、ダイアナの旧姓で、なぜそれがタイトルになっているのかは映画を観れば判るようになっている。

 あまり車と関係なさそうだと思われるだろうが、実はダイアナ妃は車の愛好家で、プリンセスでありつつ自ら運転して子どもたちを学校に連れて行ったり、友人とのランチに使っていたことでも知られている。

 それを裏付けるように本作の冒頭、ダイアナはひとりで車を運転し、クリスマスのファミリー・ディナーが開かれる王室のカントリーハウスに向かう。

 このとき運転しているのは964型ポルシェ911のオープンカー。実際にダイアナがポルシェを運転していたのかという事実は不確かで、筆者も調べてみたのだがそういう記述は見当たらなかった。

 このチョイスは監督のパブロ・ララインのアイデアらしく、おそらく象徴的なエピソードにしたかったからなのだろう。

 というのもこの冒頭シーンでダイアナはカントリーハウスに向かう道が分からず、一般の店に立ち寄り「迷ってしまった」と道を尋ねるからだ。たったひとりで高級車に乗り、自分の行くべき道が見つからず助けを求める。それは、まさにそのときダイアナがおかれた状況にほかならない。

 そのあとに続く、ダイアナにとっての悪夢のような3日間は「ダイアナはこういうギリギリの心境だったのではないか」という監督たちの独自の解釈に基づいて描かれている。

 のちに離婚したことから遡って考えられるダイアナの当時の心理に肉薄しようとしているのが、この映画の魅力のひとつ。伝記映画ではなく、監督たちが想像力を駆使したフィクションなのである。

■監督の想像力の見せ所!? ダイアナと車

今作で監督がチョイスしたダイアナの愛車はポルシェ 911(964型)。形式的にはまだ王室の一員であるダイアナがイギリス車ではなくドイツ車に乗っているというのに監督の思惑を感じずにはいられない(Pablo Larrain)
今作で監督がチョイスしたダイアナの愛車はポルシェ 911(964型)。形式的にはまだ王室の一員であるダイアナがイギリス車ではなくドイツ車に乗っているというのに監督の思惑を感じずにはいられない(Pablo Larrain)

 では、本当にダイアナが乗っていた車というと、これがちょっと意外なことにフォード。フォード エスコートRSターボシリーズ1だった。この車種はホワイトだけだったが、ダイアナはブラックに変更。市街で運転する際に目立たなくするための特注カラーだったと言われている。

 ダイアナは本当にエスコートを気に入っていたらしく、その生涯で3台所有していたという。もしかしたら、好きになるきっかけだったのかもしれない最初の一台は、婚約時代にチャールズ皇太子からプレゼントされたシルバーのフォードエスコートギア。

 その後、1985年から1988年までの3年間がもっとも有名なくだんの黒いエスコート。自分でこの車のハンドルを握り、助手席にセキュリティー担当者を乗せて走る、立場が逆転したような写真も残っている。

 ちなみにこの車は、ダイアナが亡くなって25年目になる今年の夏、英国でオークションにかけられ65万ポンド(およそ1憶500万円)で落札されたという。これまで4回所有者が変わっているというが、走行距離はおよそ2万5000kmと短く、思う存分、運転したわけではなさそうだ。

 また、ダイアナがチャールズ皇太子との婚約を発表した1981年、まだ“スペンサー”だったころの彼女の愛車はメイド・イン・UKのオースティンの赤いミニメトロ。これに乗ってマスコミを振り切って走る姿がかっこよかったそうだ。当時、こちらもダイアナの愛車として人気を集めたという記録も残っている。

 王室といえばロールスロイスやレンジローバー等の高級車が真っ先に頭に浮かぶが、ダイアナが選んだフォードとオースティンは普通の人でも手が届く大衆車。彼女の親しみやすかった個性が、国民と王室をぐっと近づけたというが、それがこの車選びにも反映されているのだと思う。

●解説●

 あるクリスマスの3日間。エリザベス女王主催による王室恒例のクリスマスディナーのため女王のカントリーハウスに、ダイアナ妃はひとりで向かっていた。

 夫チャールズ皇太子との仲は冷え切り、義母や王室との関係もギクシャクしていた彼女にとっての心の拠りどころは、ふたりの王子と衣装係のマギーだけだった。ところが、そのマギーがロンドンに帰されてしまう。

 監督のパブロ・ララインは本作の前にケネディ大統領の妻ジャクリーンを描いた『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016)を手掛けている。

 ダイアナ妃を演じるのは『トワイライト』シリーズでブレイクしたクリスティン・スチュアートで、ダイアナの喋り方や仕草を完コピ。本作の演技でアカデミー主演女優賞にノミネートされている。

 なんでもダイアナの喋り方を習得するためだけに6カ月も費やしたというから凄い。その甲斐あってのノミネートといえるかもしれない。ちなみに前記の『ジャッキー~』でタイトルロールを演じたナタリー・ポートマンも同賞にノミネートされている。

 また、ダイアナ妃はファッションアイコンとしても人気が高かったため、コスチュームにも力が注がれている。数多くのドレスが明るい色合いに特徴のあるいかにものダイアナファッションだが、そのなかでもっとも目を引くのがゴージャスで美しいアイボリー色のシャネルのドレス。

 これは何と1000時間以上もかけて作られた逸品なのだが劇中、このドレスがダイアナの妄想や奇行によって徐々に汚れて行き、彼女の不安定な心を象徴する役割を果たしている。

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「スペンサー ダイアナの決意」
「スペンサー ダイアナの決意」

『スペンサー ダイアナの決意』
2021/イギリス・ドイツ/117分/英語/カラー
配給:STAR CHANNEL MOVIES 後援:ブリティッシュ・カウンシル 読売新聞社
(C) 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED

【画像ギャラリー】プリンセス・オブ・ウェールズからふたたびスペンサーへ……「スペンサー ダイアナの決意」を観る!!(10枚)画像ギャラリー

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