最近のクルマは一度リコールとなると、もの凄い台数に膨れあがる。これは、共用パーツが多いことのなによりの証だ。今ではコスト削減、合理化のためにクラスを超えて共用するのが当たり前。
そんななか車両価格はそれほど高くないのに、そのクルマのためだけのパワートレーンを搭載したスペシャルな日本車もある。高額車ではなのにスペシャルであるという点が珍しいしすばらしい。
ここでは、それほど車両価格は高くないのに、スペシャルなパワートレーンが与えられた国産車4選を鈴木直也氏に解説してもらう。なお、ここで登場する価格はすべてデビュー直後のもとなります。
文:鈴木直也/写真:TOYOTA、HONDA、MAZDA、FORD、ベストカー編集部
量産効果に背を向けた唯一無二のクルマ
自動車の価格が安くなって、われわれ庶民でも買えるようになったのは大量生産システムのおかげだ。
T型フォードは発売当時(1910年ころ)約1000ドルだったが、ベルトコンベア方式の流れ作業で生産効率が向上するとともにグングン価格が低下。爆発的に売れた結果、最終的には250ドル程度まで価格が下がっている。
これは大量生産によるコスト低減の見本といわれているが、その代償としてほとんど変わり映えのしないT型フォードが15年以上に渡って延々と作り続けられることになる。
初期の頃はボディカラーすら黒一色だったそうで、ヘンリー・フォードは価格さえ安ければそれで充分と考えていたらしい。
それから100年。クルマは大いに進歩したけれど、大量生産の「うまみ」は変わっていない。
もちろん、競争の激しい現代、ユニークなデザインやハイテク装備な、どさまざまな新しい提案が華を競っている。建前的には細分化したニーズに応える多品種生産がセオリーだ。
しかし、それでもお金のかかる部分見えない部分はなるべく共通化して量産効果を高めたい。
最近よく話題になるプラットフォーム戦略やコモンアーキテクチャ戦略などはその一環で、設計から生産まで、幅広い分野をなるべく共通化して生産効率を高めることが、自動車メーカーの大きな戦略となっている。
ところが、そんな世知辛い世の中でも、ときどき例外があらわれる。
例えば、フラッグシップとなるスポーツモデルや、環境規制に適合するためのアドバルーン車種、あるいはモータースポーツ用のホモロゲモデルなど……。
量産効果に背を向けた、一車種専用のエンジン/パワートレーンやボディをを備えたクルマがポコッと出てくることがある。
ここでは主にパワートレーンに絞って、超高額車ではなくそれほど高くはないのに唯一無二のメカニズムを与えられた国産車を考察してみようと思う。
トヨタMR-Sの2ペダルMT
コストに糸目をつけない高価格車なら、望みどおりのエンジン/パワートレーンを専用で誂えることが可能だが、安いクルマはそうはいかない。
MR-Sはセリカ/カローラ系のエンジン/ミッションを使った横置きミッドシップスポーツだが、トヨタ手持ちのコンポーネンツの中からなんとか面白い組み合わせはできないものかと考えた結果、2ペダルのシングルクラッチAMT仕様が投入されている。
スポーツカーとはいえAT仕様がないと販売上厳しい。しかし、ありきたりのステップATやCVTでは面白くない。
そこで、チーフエンジニアの中川さんは、欧州仕様ヤリスなどで使われていたシングルクラッチAMTを導入。MR-Sでは敢えてマニュアル操作で乗ってもらいたいという意味を込め、シーケンシャルマニュアルトランスミッション (SMT) と名付けて発売した。
当時はまだDCTは存在せず、ステップATも現在ほど進化していなかったから、ダイレクト感重視のスポーツカー向けATとしてはこのタイプが有望。
そう考えられていたから、BMWも「SMG」と名付けたモデルをラインナップしていたほどだったのだ。
残念ながら、シフトアップ時のトルク抜けがどうしても解消できず、あまり評価されることなくMR-Sの生産終了とともに姿を消すのだが、チーフエンジニアが意地を見せれば低価格スポーツカーでも面白いトライができるというよき見本だったといえる。
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