ヤリスカップに参戦するきっかけは?
そして、いよいよレース当日。富士スピードウェイに到着すると、たくさんのヤリスカップカーが集まっていました。91台という物凄い台数のため、ひとつのピットに約5台のヤリスがぎゅうぎゅうに押し込まれています。
そのなかでも、織戸茉彩さんの559号車のまわりには、たくさんの取材陣や関係者が詰めかけていました。茉彩さんのお父さんであり、コーチでもある織戸学さんも、にこやかにみなさんと会話しています。
さっそく、織戸さんにお話を伺ってみると、普段のレーシングドライバーとしての厳しい表情から一転、柔らかい口調で受け答えしてくれました。
「ヤリスカップが始まると聞いた時、茉彩が出るのはどうだろうと思ったんです。本人も含めて家族会議をしたんですが、茉彩が『やりたい!』と積極的だったので、チャレンジしてみることになりました。
僕の経営している『130R YOKOHAMA』のシミュレーターで練習はしたのですが、ヤリスカップカーでの本格的な練習は、ヤリスカップ参加者向けの合同練習会が初めてでしたね。実は、その時に茉彩がクラッシュしてしまったんです。それまでは、タイムもぐんぐん良くなって、調子が良かったんですけどね。そのクラッシュがネックになっているようなので、今回はそれを克服してしっかり走り切って欲しいです」。
予選開始10分前になると、これまで和気藹々としていた雰囲気から、途端にピリッとした空気に。茉彩さんは、応援に来ていたお母さんから飲み物を受け取って、緊張も一緒に飲み込むように、ごくりと一口。女性の筆者から見ても、茉彩さんは小柄な女性です。しかし、ヘルメットからは、お父さん譲りの意思の強そうな目が覗いています。
予選結果はいかに?
ヤリスカップカーに乗り込んだ茉彩さんに、織戸さんは「タイムは気にするな」と声をかけて、軽く肩をポンと叩きました。
いよいよ予選スタートです! 予選前に軽く雨が降ったため、サーキットはところどころ濡れている様子。織戸さんも「このコンディションはプロでも難しいな……」と呟くほど、タイムを出すには厳しい路面のようです。練習会で茉彩さんがクラッシュしたというコカ・コーラコーナー付近で予選の行方を見守ることにしました。
予選はA組、B組で分かれているものの、どちらも40台超えの混雑ぶり。茉彩さんのまわりにも他のドライバーが走っているのが見えます。
そのなかの何台かが、コカ・コーラコーナーの濡れた縁石を踏んでスピン! 茉彩さんはそれに巻き込まれることなく、自分のラインを守って周回を重ねます。滑らないように慎重に走っていることもあってか、タイムはなかなか上がらなかったものの、予選は無事に走り終えることができました。
予選結果は、A組では44人中43番手。91台がエントリーしているため、決勝に進出できるのは、約半数のドライバーのみ。今回は、残念ながら決勝には上がれませんでしたが、ピットへと帰ってきた茉彩さんは晴れやかな表情をしていました。
「緊張した〜!」
話を聞いてみると、「まわりでいろんなクルマがスピンしていて、それを見て少し怖くなっちゃいました。でも、まずは走り切れて良かったです。決勝には進めませんでしたが、これから模擬レースがあるので、しっかり頑張りたいです」とのこと。
有名なドライバーの息子さんや娘さんとなると、レースの英才教育を受けていて、自信たっぷりで……という印象がありますが、茉彩さんは本当にレースを始めたての普通の女の子なんだと感じました。緊張している時、ホッとした時、家族と話している時、どんなシーンでも自分を飾ることなく自然な表情を見せています。
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