メルセデスベンツの企業スローガンに「Das Beste oder nichts(最善か無か)」というものがあるのをご存じだろうか?
創業から1990年前後まで使われていたが、いつのまにかなくなり、2010年代後半から再び使われるようになった。
このスローガンが意味するものは、わかりやすくいえば、「理想のクルマを作るために、コストを顧みず、最高の品質、性能を追求する」。コスト計算が先に来る現在のクルマ作りとは真逆の考え方である。
その「最善か無か」を代表するクルマとして、W124(型式名)ことメルセデスベンツEクラス(登場時はミディアムクラス)が真っ先に挙げられる。
登場時から、金庫のような重厚なドアの開閉音、ガッチリとしたボディ剛性感、オーバークオリティなどと言われ評判が高かったが、生産終了から25年が経過した今、Eクラスの中古車事情はどうなっているのだろうか?
相変わらず人気が継続しているのだろうか? 中古車事情に詳しい伊達軍曹が解説する。
文/伊達軍曹
写真/メルセデスベンツ
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最後のベンツらしいベンツ?
「W124」という型式名で呼ばれることが多い、4世代前のメルセデスベンツEクラス。生産終了から25年が経過しているにもかかわらず、中古車マーケットではいまだに人気を維持している。
5LのV8DOHCエンジンを搭載した「500E」は1000万円級のプライスが付くことも珍しくなく、一般的な6気筒モデルであっても、上物であれば180万円は超えるケースが多い。
いったいなぜ、今となっては「古くさい」とも言えるこのセダンが、いまだ人気車種であり続けているのか?
それは、W124こそが「最後のベンツらしいベンツ」であるからだ。
メルセデスベンツの長い歴史をかなり端折ってカンタンに述べるならば、以下の4期に分けることができる。
●創業期:自動車の発明と開発
●進撃期:「最善か無か」をテーマに、妥協なき作りの高級サルーン各車を開発●停滞期:社会情勢の変化によって「最善か無か」とも言っていられなくなり、コストダウンに励む
●円熟期(現在):むやみなコストダウンの弊害を反省し、「顧客に十分満足してもらえて、なおかつ利益もしっかり出るクルマ作り」の手法を会得。そして躍進する
上記の「停滞期」は1990年代半ば頃に相当し、この時期に登場したメルセデスのニューモデルは、言ってはなんだが「コストダウンの痕跡」ばかりが目立つ、ちょっとアレな車種ばかりであった。2020年の今、この時期のメルセデスをわざわざ買う必要性は完全にナッシングである。
だがW124型ミディアムクラス/Eクラスは違う。メルセデスが「最善か無か」を地で行っていた時代の最後近くに開発されたクルマであるため、十分に「往年のベンツ、黄金期のベンツ」なのだ。
あえてメルセデスではなく「ベンツ」と書きたくなる重厚長大な質感と設計が、随所に残っているのだ。
ラックアンドピニオンではなくリサーキュレーティングボール式のステアリングギアボックスを使用したことによる、絹のようになめらかなステアフィール。やたらとボディ剛性が高いせいか、「戦車か?」と思ってしまいそうになる、ドア開閉時の素晴らしい音と感触。
まぁ超ディープなマニアのなかには「W124だってしょせんはコストダウン期の作品だよ。本当のメルセデスは1970年代までだね!」と言う人もいる。
それはそれで一理ある話だが、それでもW124は「“最善か無か”の時代に作られたメルセデス」であることは間違いない。
そしてその最後の世代であるがゆえに、1960年代や1970年代のガチでクラシカルなモデルと違って「まだまだ普通に買って、乗って、維持できる」という、好ましい性質を備えている。
そうであるがゆえにW124は、2020年の今もなお「人気」であり続けているのだ。
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