1987年6月、7代目となるY31型セドリック/グロリアに、ピラーレスハードトップのスポーティセダン、グランツーリスモが設定された。
このグランツーリスモは、従来のブロアムに比べると圧倒的にスポーティで、「1990年代までに技術の世界一を目指す」クルマ作りを目標とした日産901運動の影響もあって、ファンなハンドリングを持っていた。
当時も今もニッポンのセダンの頂点に君臨するのはトヨタクラウンだが、そのクラウンよりも若々しいことをアピールすることで、差別化を図ったのがこのY31型からだった。
Y31型グランツーリスモSVが348万5000円、グランツーリスモが330万6000円という高価格にもかかわらず、若い世代を中心に一大ブームを巻き起こした。
おそらく現在の50代中盤以降のクルマ好きの人たちにとって、憧れたけど高くて買えなかったクルマとして記憶に残っているに違いない。
さて、このセドリック/グロリアのグランツーリスモは、今いったいいくらで買えるのだろうか? 中古車事情に詳しい伊達軍曹が解説する。
文/伊達軍曹
写真/日産
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中小企業の社長さんが乗っているイメージを脱皮した

1980年代半ばまでの日産セドリックおよびそのバッジエンジニアリング車であるグロリアといえば、大半が法人需要であるという「おっさんセダン」の象徴的存在だった。
言ってはなんだが、乗ってる人のイメージは映画『男はつらいよ』に出演しているタコ社長(俳優の桂梅太郎さん)。
中小企業の社長さんが乗っているイメージで、とてもじゃないが20代や30代前半ぐらいの若い男が憧れる類のクルマではなかったのだ。
そこに「新しい風」として颯爽と現れたのが、1987年6月にデビューしたY31型日産セドリック/グロリアのハードトップ版だった。
それまでの「少しでも大きく見せよう」という、今にして思えばダサい考え方を廃し、ボディの前後に“しぼり”を入れた造形に変わったY31型セド・グロのハードトップは、それまでの「法人の経費で買っていただきたいクルマ」とは明確に異なる「ドライバーズカー」を目指したものだったのだ。
まぁそれでも上級グレードであるブロアム系は、相変わらず『男はつらいよ』のタコ社長に似合いそうなクルマだったが、新たに個人ユーザーをターゲットに設定された「グランツーリスモ」は、それまでのジャパニーズセダン(4ドアハードトップ)ではほとんど見られなかった
「重厚長大なれどスポーティ」という、近年のジャーマンセダンにも通じる世界観を見事に作り上げていた。

最高出力185psを6800回転で発生させる2LのV6DOHCターボエンジンは、レスポンスも低中速トルクも当時の2Lユニットとしては最高レベル。
そしてリアサスペンションがそれまでのリジッド式から独立式(トレーリングアーム)に変わったことで、フワフワとしたタコ社長好みの(?)乗り心地と大仰なロールを許すコーナリングから、ビシッと引き締まったそれに変わった。
そしてフロントウインカーの下にフォグランプを装備すると同時にフードマスコットを廃したことで、クルマ全体としてのビジュアルと雰囲気もブロアム系とは大きく異なっていたのが、このY31型グランツーリスモだった。
当然ながらそれは当時の若年層、バブル景気を背景にイケイケだった20代から30代男性の心をとらえたわけだが、実際にY31型グランツーリスモSVを購入できた若年層は多くはなかった。
なぜならば、グランツーリスモSVの当時の新車価格は348万5000円(1987年6月発売時)。
いかにバブルでイケイケな世の中だったとはいえ、実際にその額を出せる若者は少なかったのだ。
多くの若年層は、稼ぎのいい同年代や少し年長の男らが「買ったぜ!」と自慢する姿を「いいなぁ……」と思いながら、ただただ眺めていたのだ。
しかしそんな「当時の若年層」も、筆者を含めて今や立派な中高年。よっぽど高額な車種でもない限り、中古車の1台や2台を買うだけの財力は(いちおう)あるはず。
ならば今、当時の夢を実現させるというか恨みを晴らす(?)意味で、Y31型セドリック/グロリアのグランツーリスモ系を買ってみるのも悪くないかも……ということで、各車の「2020年現在の中古車事情」を調査してみた。
Y31型グランツーリスモSVの中古車は何台流通している?
まずはY31型セドリックのグランツーリスモ。これは流通量がきわめて少なく、2020年7月末現在、中古車情報サイト「カーセンサーnet」には全国で3台の掲載しかない。
価格は、走行約10万kmの1989年式グランツーリスモSVの車両本体価格が55万円というなかなかの安値で売られているが、ほかの2台はいずれも150万円前後。
こちらは走行距離5万km台という低走行物件で、なおかつ希少なフルノーマル系ということで、けっこうなプレミアムが付いているようだ。
とはいえ「しょせん150万円」という言い方もできるわけで、これに諸費用と納車整備費用を足しても総額200万円弱でイケるはず。
決して安くはないが、「貴重な文化財を入手するための費用」と考えるならば、法外に高いわけでもない。
この世代のセドリックグランツーリスモに特別な思い入れがある中高年であれば、買ってみる価値はあるだろう。
もう一方のY31型グロリアはどうなっているかというと、こちらのグランツーリスモ系の流通台数は、同じくカーセンサーnetによれば全国で6台。
「セドリックの倍!」ということもできるが、「セドリック同様に少ない」ということもできる数字だ。
中古車相場もセドリックと似ていて、多走行の底値物件がだいたい車両本体価格50万円ほどであり、低走行のフルノーマル系ワンオーナー車は150万円ぐらい。
その間に、走行5万kmから8万kmぐらいまでの物件が車両本体価格が100万円ほどで販売されているというのが現状だ。
車両本体価格が50万円ほどの底値物件は程度が心配なのでスルーするとして、それ以外の物件を購入するとなると、諸費用および納車整備費用と合わせて「乗り出し130万円から180万円ぐらい」というのが、Y31型グロリアのグランツーリスモ系を買う場合の予算目安となるだろう。
Y31型セドリック/グロリア・グランツーリスモSVの中古車情報はこちら!
Y32型グランツーリスモはどうか?




Y31型はさすがにちょっと古いため流通台数が少ないわけだが、後継であるY32型(1991年6月~1995年6月)セドリック/グロリアのグランツーリスモ系ならばもっと流通台数が多く、探しやすいのではないだろうか?
クラシカルな趣きという面ではY31型に軍配が上がると思うが、Y32型のグランツーリスモ系も、あれはあれで悪くない。
重厚な3ナンバーサイズのハードトップボディと、丸目4灯のヘッドランプが織りなす世界観は、もはや「ネオクラシック」とも呼べる味わいが発生しはじめている。
……だが実際はそうでもないようだ。
流通台数はY32型セドリックのグランツーリスモ系が全国8台で、Y32型グロリアのそれが3台と、Y31型グランツーリスモ系の流通状況とさほど大きな違いはない。
違うのは「中古車価格」だ。
Y32系の場合、ごく希に120万円ほどの車両本体価格が付けられている物件もあるが、大半は「車両本体価格50万円以下」という激安車扱い。
それも、走行5万kmぐらいの、Y31型グランツーリスモ系であれば100万円は下らないだろうと思われる条件の物件でも、車両本体価格が60万円ほどのプライスしか付いていないのだ。
これはクルマの出来云々ではなく「たたずまいの差」なのだろう。
明らかにクラシカルなカッコ良さが噴出しているY31型は、クラシカルゆえに「欲しい!」と考える人が多く、そのために相場が上昇する。
しかし「中途半端に最近っぽいデザイン」と言えなくもないY32型は、「わざわざそれを買いたい」と考える人の数がさほど多くはないため、どうしても相場は安めとなる……ということだ。
この「Y32現象」をどう考えるかは微妙なところだ。「安く買える!」と喜ぶべきなのか、それとも「まぁやっぱり魅力に欠けるんですね……」と判断するのか。
このあたりは個人の価値観や好みによって決めるしかない問題だが、Y32型グランツーリスモ系のあのデザインとたたずまいに、何らかの思い入れや思い出がある人にとっては歓迎すべき、Y32型の中古車相場動向といえるのかもしれない。
今後、(特にY31型の)セド・グロ・グランツーリスモ系が、トヨタチェイサー ツアラーVの相場のように高騰するかどうかはわからない。
というか、そこまで高騰しない可能性のほうが高いとは思うが、「ちょっと古い名車」の人気は高まる一方なのが現在の世界的トレンドではある。
もしもY31型グランツーリスモ系のセド・グロにご興味がある中高年各位がいらっしゃったならば、その購入アクションは「なるべく早め」のほうがいいだろうと確実に思う次第だ。