昨年の10月に日本の鉄鋼メーカー日本製鉄が、トヨタ自動車を特許侵害で東京地裁に提訴したことは記憶に新しい。日本の自動車業界とは良好な関係にあった日鉄が、なぜトヨタ提訴に踏み切ったのか? それは中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄が日鉄の特許である「無方向電磁鋼板」を無断で製造し、それをトヨタが使用している関係でトヨタ提訴となった。
そんな中、日本製鉄は昨年の鋼鉄の値上げに続いて再度の値上げ要求だ。昨今のコロナ禍やウクライナ危機を考えると致し方ないと思うが、こんなニュースを聞くと世界中でインフレが加速しそうで怖くなってくる。当然、クルマの価格にも値上げが波及してくるのは言うまでもなく……近いうちに始まるだろう。
どうしてこうなった? いったいこれは何を意味するのか? 本稿ではトヨタと日鉄の関係性や鋼鉄の値上げによる影響を考察する。
文/国沢光宏
写真/日本製鉄、トヨタ、AdobeStock(トビラ:jeson @ AdobeStock)
■長年いい関係を築いてきたトヨタと日鉄だったが……
ロシアのウクライナ侵攻で、自動車産業は大きな影響を受け始めた。すでに厳しい状況になっているのが欧州メーカー。長引く半導体不足に加え、ウクライナで作っているワイヤーハーネスに代表される自動車部品を調達出来ず、メルセデスベンツやBMW、VWなど生産調整を余儀なくされてます。原油や天然ガスなどエネルギーコストも急上昇中。これには日本の自動車メーカーまで巻き込まれる。
例えば、エネルギーコストの増加で大きな影響を受けるのがクルマ作りのベース素材となる鉄鋼。どんな素材にも言えることながら、需要と供給のバランスで調達価格は決まる。自動車メーカーと鉄鋼業界の関係を見ると、黎明期から大切なパートナーだった。鉄鋼業界にとって利幅の大きい自動車用の鉄鋼素材は、大きな収益源になるからだ。自動車メーカーにとっても良質の材料を必要とします。
なかでも蜜月関係にあったのがトヨタと日本製鉄。この2社、長い間に渡り、いいパートナーだったように思う。そんな状況が変わり始めたのは数年前のこと。日本製鉄からすれば、いい素材を作っているのだから、もう少し購入価格を上げて欲しいということなんだろう。しかし、トヨタと折衝しても、思ったような回答は得られない。代表的な素材がモーターなどに使う『無方向性電磁鋼板』。
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