2023年11月から2025年3月まで、千葉県柏市にて、東京大学の研究グループが、EV走行中給電の実証実験を行っている。もし実用化できたら、EVのさらなる可能性が広がると言える。どのような技術なのか解説していく。
文・写真/高根英幸
【画像ギャラリー】グッと来るぞ!! トヨタ高性能EVスポーツカー「FT-Se」をイッキ見する!!(12枚)画像ギャラリー■EVの充電に新たな技術が到来したら、さらなる発展につながる!
BEVは充電して蓄えた電力を使ってモーターを駆動して走行する。ハイブリッドと違ってBEVは、バッテリーの容量と急速充電の能力が、1日の行動範囲を決定づけることになる、というのが自動車業界の常識だ。
しかしこれも充電方法が変わってくれば、覆される可能性がある。
そもそも充電の方法には有線による普通充電(100V/200Vの家庭用)や急速充電のほか、非接触充電もあってすでに実用化されている。
これは駐車場の床面に送電コイルを置き、車体の底部にも受電コイルを取り付けている。
電磁誘導(他にも非接触給電はあるが、車両向けではこれが一般的)という原理によって電気を電磁波に変えて送り、受け取った電磁波を電気に変換することで電流を受け取ることができる、という仕組みだ。
原理としては比較的単純だ。IHクッキングヒーターやIH炊飯器などでは、コイルの電磁波を鉄板が受けることで熱に変換している。
その電磁波をコイルで受け取ることでまた電気に戻して利用するのが、非接触充電なのである。
これを走りながら行おうというのが、走行中ワイヤレス給電だ。と言っても道路すべてに送電コイルを敷き詰める必要はない。
高速道路上や一般道なら交差点の一部に送電コイルを設置することで充電して、走行を続けられるという仕組みだ。
■東大が研究を進める走行中給電ってどんな技術なの?
先ごろ開催されたジャパンモビリティショーにも、そんな走行中ワイヤレス給電の最新技術が展示されていた。
ブリヂストンブースには、タイヤのカットモデルが展示されていたのだが、なんと従来は空気が収まるタイヤ内部に受電コイルを収めるという仰天の発想が取り入れられていた。
従来は足回りに受電コイルを取り付けていたが、路面とは15cmの間隔があり、そこで電磁波が減衰してしまっていた。
しかしタイヤの中にコイルを組み込んでしまえば、コイルの位置が路面にグッと近づく。
実際にはタイヤの中継コイルからホイール内側の中継コイルを経由して、ハブの受電コイルからインホイールモーターへと電力供給を行うらしい。
バネ下重量が重くなり、いくつものコイルを使うなどデメリットもあるが、まずは実験を繰り返して可能性を探る計画のようだ。
さらにパーツサプライヤーのTHKのブースには、ドイツ製ながら走行中ワイヤレス給電のシステムも盛り込まれた展示がされていた。
走行中ワイヤレス給電が実現すれば、バッテリーの容量に関わらず、走行を続けることができる。
つまり最小限のバッテリーだけを搭載すればいいので、バッテリー資源の節約にもつながる。
この日本でも走行中ワイヤレス給電が研究され始めて、もう20年近くが経過している。
筆者は随分前からこの技術の開発を見守っていて、その変遷を見てきた。だが、実際に走行中に給電するとなると、いろいろな問題が出てくる。
送電と受電のコイルの間隔は、近いほど伝達効率は高くなるが、クルマは最低地上高や車体の構造によって、路面に近付けることには限界がある。
またリニアモーターカーのように決まった位置を走行する列車と違い、クルマは車線内でも数十cmは横方向にズレることもあるので、走行ラインの正確性とコイル同士がズレても送受電の効率が落ちない工夫が必要だ。
このあたりは非接触充電でもある課題なので、オフセットされた場合でも送受電効率を高める技術が開発されてきた。
東京大学の研究室は長く、これに取り組んでいる。目指しているのはインホイールモーターにダイレクトに給電することで、車載のバッテリーを介さずに電流を利用する、というもの。
電流や電圧をコントロールする制御はシビアになるがロスが少なく、モーターの出力に対してバッテリーの容量も問わないのは、BEVにとって大きな武器になる。
いっぽう、車体底部の中心にコイルを配置してバッテリーを充電しながら走行する方式もある。
これは、車線に対してオフセットして走行する許容度は少し大きくなるので、自動運転でなければ実質的な効率を高く維持できそうだ。
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