■販売系列の廃止は高価格車にとってマイナスだ
同様のことが販売店にも当てはまる。トヨペット店とトヨタカローラ店が隣接する地域など、以前は取り扱い車種が異なるから併存したが、同じになれば販売力の強い店舗が残る。
トヨタの店舗数は前述の約4600店舗と充実しているが、2010年頃は5000店舗を超えていた。すでにトヨタの販売店は減少傾向にあり、全店が全車扱いになったことで、さらに加速する可能性もある。
日産やホンダも、2000年前後から2010年頃に掛けて、全店が全車を扱う体制に移行した。その結果、一部の人気車だけが好調に売れるようになり、2020年度のホンダでは、軽自動車にフィットとフリードを加えると国内で売られたホンダ車の80%に達する。これと同様の現象がトヨタにも起こり始めている。
今のトヨタ車の売れ方は、リストラの範囲内に収まるが、今後は歯止めが掛からずホンダのようになる可能性もある。特にクラウンのような売れ筋カテゴリーからはずれた高価格車は、意識的に力を入れて売る必要があり、系列の撤廃はマイナスに作用する。
クラウンの開発者は「クラウンは、お客様、トヨタ店の皆様、トヨタが力を合わせて育ててきたクルマだと考えている」と述べた。まさにこの点に、全店が全車を扱うことの損失がある。
■ユーザーのためにもメーカー同士の競争は大切
ほかのメーカーに与える影響はどうか。ユーザーとしては、小型/普通車登録台数ランキングの上位にトヨタ車が並んだことで、ほかのメーカーが発憤する効果を期待したい。
ところが実際は逆だ。
軽自動車に力を入れたり、海外市場を重視する。日産は「2021年からは国内に力を入れる」としているが、今のところは新型エクストレイルやアリアも登場しておらず、本当のところはどうなるか分からない。
ちなみに大人気のアルファードは、最初は(当時)好調に売れていたエルグランドを販売面で倒すことを視野に入れて開発された。
シエンタは、ホンダモビリオが燃料タンクを前席の下に搭載して低床設計にしたのを受けて、初代で薄型燃料タンクを開発して2代目の現行型に受け継がれている。ランドクルーザープラドの初代モデルは、絶好調に売れていた三菱パジェロに刺激されて開発されている。
いろいろなメーカーが優れた商品を開発して好調に売るから、トヨタも対抗して商品力をさらに向上させてきた。今は電動化を視野に入れて、メーカー同士の協力関係が話題になるが、依然として競争は大切だ。
長年にわたり競うことで商品開発が促進され、ユーザーの利益を高めてきた。この好循環を止めてはならない。日本のユーザーのために、トヨタ以外のメーカーにも、大いに頑張っていただきたい。
コメント
コメントの使い方