■現在の日産の業績悪化の原因とは?
短期的には教科書的な手法で業績を回復させたゴーン氏だが、長期戦略はどうだったのだろうか。
ゴーン氏はリストラ実施後、シェア拡大に邁進し、結果的にルノー・日産・三菱連合は販売台数で世界トップ3の仲間入りを果たした。この数字を実現するため、米国では過剰な販売奨励金を積み増すなど、無理を重ねてきたのは事実だが、シェア拡大という戦略そのものは間違っていない。
自動車はEV(電気自動車)化という100年に一度の変革期を迎えており、産業構造の激変が予想されていた。
EV時代になればクルマが一気にコモディティ化する可能性が高く、そのような市場においては、シェア拡大で規模のメリットを追求するしか生き残る方法はない(小さなニッチメーカーになるのであれば話は別だが)。
グローバル市場のトップ3社だった独フォルクスワーゲン(VW)、ルノー・日産・三菱連合、トヨタが販売台数を重視していたのもそうした理由からである。
だがゴーン氏の逮捕と退任をきっかけに、日産の戦略は完全に逆回転を始めてしまい、今となっては会社の存続すら危ぶまれる状況となっている。
ゴーン氏がシェア拡大に無理を重ねたのは事実だが、ゴーン氏が日産をダメにしたと言い切ることは難しい。その理由は、日産の業績が急降下したのは、ゴーン氏逮捕という非常事態に際して、日産経営陣が権力闘争に明け暮れ、オペレーションを放置したことが最大の原因だからである。
もし、ゴーン氏の追放に費やす時間を北米市場の立て直しなどに充当していれば、日産の業績はここまで悪化しなかっただろう。
■日産は常に経営権をめぐって内紛を繰り返している企業である
だが筆者に言わせれば、経営そっちのけで内紛に明け暮れる日産経営陣の姿というのは、デジャブ(既視感)そのものである。
若い読者の方は知らないかもしれないが、そもそも日産が経営危機に陥った最大の原因は、1980年代から続くトップの放漫経営と、主導権をめぐる内紛であった。
しかも、異様な力を持った労働組合までもが経営に介入する状況であり(組合トップの塩路一郎氏は天皇と呼ばれていた)、当時の日産はまともな経営ができていなかった。
こうした長年の放漫経営が90年代後半の業績悪化の要因であり、最終的にこれがルノーによる救済につながっている。つまり日産の歴史を知っている人からすれば、日産というのはずっと前からガバナンスが不全で、常に経営権をめぐって内紛を繰り返している企業である。ゴーン氏のトップ就任と追放劇も特別なことではないのだ。
ゴーン氏が、こうした日産の社内体制を完全に変革できなかったという点においては、失敗だったということになるが、大胆なコストカットとシェア拡大、そしてEVシフトという戦略は、経営学的にはまっとうなものであった。
結局のところ日産は同じことを繰り返しているだけであり、ゴーン氏に対する評価というのは、それ以上でもそれ以下でもない。
■日産がダメになった本質的な原因は経営陣にあるといえる
冒頭にも述べたが、ゴーン氏はグローバル社会ではよく見かける、強欲で、かつ、それなりの能力を持った経営者であった。経営者としてごく当たり前の人物を、過剰に評価したり、貶めたところで何も生み出さない。
しかも、コーポレートガバナンス上、(社外役員も含めて)取締役は対等であり、全員に等しく経営責任がある(そもそもCEOの独裁を許してしまった段階で、取締役に課された善管注意義務を放棄していることになるが、日本社会ではこうした認識は薄い)。
日産がダメになった理由は、まさに日産経営陣の無能さであり、株式会社である以上、最終的にはそれを放置した株主の責任ということになるだろう。
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