特筆すべきは絶妙なエンジン配置
エンジンを主翼の上に配置することで、居住性は良くなった。しかし、デリケートな主翼上面に空力的な障害物を載せると「燃費の良さ」「航続距離の長さ」は実現できない。その課題にどう対処したのか?
その答えを導き出したのが藤野社長のスゴイところである。ホンダジェットの開発を主導した藤野氏は昨年8月、革新的な航空機に贈られる米国の「AIAAリード航空賞」を受賞しているが、これも日本人として初めての快挙である。
上の図を見ていただくと、主翼に赤いラインが描かれている。これは主翼上面で発生する空気抵抗(衝撃波)を表している。こうした空気抵抗は、どんな翼型(翼の断面形状)であっても発生し得るもので、それをいかに少なくできるかが翼設計の腕の見せどころでもある。
エンジン前方の主翼上面を見ると、他の部分よりも赤い抵抗値が減少している。もしなんの配慮もなくエンジンを搭載すれば、それが障害物となり、空気の流れを妨げ、この部分が真っ赤になるはずだ。しかし、絶妙なこのエンジン配置によって、ジェットエンジンの吸気作用も活用し、主翼上面に発生する空力的な抵抗を減少させているのだ。
この機体の初号機を共同購入したホリエモンこと堀江貴文氏が言うには、「これが数センチでもズレてたら燃費が下がるらしい」とコメントしていたが、恐らくそれは藤田氏から直接聞いた事実だろう。
従来的な設計メソッドではナンセンスとも思われがちな「主翼上面エンジン配置形態」(OTWEM)を実現したホンダジェット。他にも同機はオリジナルの翼型を採用した「NLF(自然層流)翼」「NLF胴体ノーズ」「コンポジット胴体」などなど、ホンダが独自で開発した先進技術を数多く採用している。
それら革新的技術の採用によって「快適性」だけでなく、「機速の速さ」「飛翔高度の高さ」「燃費の良さ」「航続距離の長さ」を、この小型クラスのビジネスジェットで実現したことが、ホンダジェットの高評価につながっている。
独創性が高く、既存概念にとらわれないこの設計アプローチは、いかにもホンダらしい。ホンダのロゴマークに翼を選んだ創立者も、きっと満足しているに違いない。
現行のモデルは「ホンダジェットElite」だが、去る2021年10月には世界最大のビジネス航空機ショー(NBAA)にて「ホンダジェット2600」が参考展示されている。「Elite」の乗客定員7名なのに対し、「2600」は11名。このサイズアップされた機体に、世界からのバックオーダーがどれだけ入るか、今から楽しみだ。
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