2020年5月、全車種併売を開始した、トヨタ自動車。トヨタ店のクラウン、トヨペット店のハリアー、カローラ店のカローラ、ネッツ店のヴィッツ(現ヤリス)などの専売車種が、4チャネルどこでも購入できる状況となり、販売現場は変化の渦中にいる。
混乱のなかにあるトヨタ販売店の現状を、元トヨタディーラー営業マンの筆者が取材した。新型ハリアーが、7月1ヶ月間で、前年同月比273.3%の9388台と、ものすごい勢いで売れているトヨタ店であるが、販売好調でも、安心できない状況が続いているようだ。
文:佐々木 亘
写真:TOYOTA、ベストカーWeb編集部/撮影:池之平昌信
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生き残りをかけた、サバイバルレース状態
チャネルごとに車種を限定し販売をしていたのは、トヨタだけに限ったことではなかった。以前は、日産・ホンダなどでもチャネル分けをした販売を行っており、日産では2005年から、ホンダでは2006年からチャネルの棲み分けを無くし併売体制をとっている。
今、専売という顧客を囲い込んでいた障壁が崩壊し、トヨタの各販売店は、専売であったクルマのオーナーが、他チャネルに流出してしまうのではないか、と危惧しているのだ。
トヨタ販売店の多くは、地場資本が経営する。地場資本とは、各地域の地元企業や、地元の有力者一族のことを指し、各チャネルの関係は別会社、つまりライバル会社となる。
これまでは、クラウン・ハリアー・カローラ・ヴィッツなどの専売車が各チャネルにあり、自動的に棲み分けが行われていたが、併売により壁は無くなった。各販売店同士、生き残りをかけて、サバイバルレースが展開されることになるのだ。
また、トヨタは2020年7月22日、北海道や宮城県などの直営販売子会社5社を、地元のトヨタ系ディーラー運営会社に売却すると明らかにした。地域に詳しい企業に販売を任せることで、地元の需要に合ったサービスの提供を図るのが狙いだ。
これでトヨタのメーカー直営販社はトヨタモビリティ東京1社のみとなった。地方での販社再編の動きは待ったなしでやってくる。
これらが影響して、トヨタの値引き競争が激化している。筆者の体感としても、トヨタ車の値引き額は、併売開始前よりもかなり大きくなったと感じられる。ハイエースの車両本体値引きが6%程度から10%へ拡大、新型ハリアーも3%程度から6%になっている。
実際に新型ハリアーの見積もりをとってみると、トヨタ店・カローラ店・ネッツ店では、車両本体値引きに本体価格の2~3%を提示してくるところが多かったが、トヨペット店では5%~6%からスタートする。元専売車の強みを生かし、ハリアーに関してはトヨペット一人勝ちの印象が強い。
しかし、この値引き競争によって、販売車両1台に対する販売利益は大きく減少し、新車販売に依存した経営では、今後苦しい状況が続いていくだろう。
各販売店は戦々恐々
各チャネルは、販売競争が激化する中で、販売店の縮小や統廃合の動きに、戦々恐々としている。小型店舗が多く、とにかくクルマをたくさん売ることで利益を出してきたネッツ・カローラは、他メーカーから顧客を取ることに躍起だ。個人向けに独自のフェアを行う販社が多く、営業地盤を固めるのに必死である。
対して、大型店舗で法人客も多いトヨタ・トヨペットでは、サービスや保険などの車両販売以外に力を注いでいる。大型利益商品を売ることで、ネッツやカローラとの台数の差を埋めてきた両社は、併売体制にも焦りは見えない。
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