「人馬一体」、「意のままに操れる走り」を売りにするマツダ。その走りの原点は、今や絶版になったミニバンだった!?
マツダの技術者と話すとき、今のマツダの走りの原点としてプレマシーをあげることがある。筆者はそうだろうね、と納得するのだが、読者にとっては???ではないだろうか。意外!? という声が聞こえてきそうだ。
では、なぜプレマシーの走りが良かったのか? どんな部分が良かったのか?どこが今のマツダ車に活かされているのか?
文/松田秀士、写真/マツダ
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ミニバンなのに進化したプレマシーのハンドリング
プレマシーは2010年にフルモデルチェンジし3代目(CW系)に刷新。生産終了は2018年だ。この間、マイナーチェンジも行われた。
しかし、この3代目デビューの時から走り(ハンドリング)への挑戦が始まっていたのだ。
2010年、「時代に合ったスマートな選択」というテーマのもとプレマシーはデビュー。1台であらゆるニーズに応えられるファミリーカーを目指した。
つまり、そこにはミニバンとしてのユーティリティを確保しながらハンドリングも追及していた。その時、これほどハンドリングが進化しているとは! と驚かされたことが記憶に新しい。
ミニバンを購入するユーザーはほとんどが家族を持っている。特に3列シート車ともなると、家族や親戚さらに友人などと出かける機会が多いユーザーたち。
しかし、マツダはそんな人にもスポーティーなハンドリングを楽しんでもらおうと考えたわけだ。
せめて一人で運転するときにはドライビングを楽しみたい。ZOOM-ZOOMのポリシーだ。そして、多人数乗車でもシェアなハンドリングは積極的な安全思想といえる。
2012年のマイナーチェンジによって当時のSKYACTIVテクノロジーを採用。プレマシーのハンドリングはさらに昇華していた。
ミニバンでここまでやるか! しなやかなハンドリングの訳
プレマシーは左右にスライドドアを採用。ミニバンはただでさえ段ボール箱を開けたような構造。そこに開口部の大きなスライドドアを採用しているわけでボディ剛性を確保するのは至難の業だ。
しかし、プレマシーはサスペンションをキレイに動かして自由自在のハンドリングを達成していたのだ。
これは、まず土台となるボディがしっかりしていなくては、サスペンションをコントロールしきれないはず。そのハンドリングで当時筆者が感動したのは、ステアリングを切り始めたときのフロントの応答そしてサスペンションの動きだ。
実にしなやかでソフト。そして、しなやかなのに過剰にロールし過ぎるオーバーシュートが小さい。
また、ロールも適度で恐怖を感じさせず、速度域に係わらず狙ったコーナーリングラインを自在にトレースできる。コーナリング中にもっと切り込みたいという要求にもしっかり反応したのだ。
試乗会でのプレゼンテーションで、コーナリングをコーナー進入、コーナリング中、コーナー出口に分けて、そこでドライバーがどのような操作をしてクルマがどのように反応するかを細かくデータ取りした図が示されたのを覚えている。ミニバンでここまでやるのか! と驚いたものだ。
ロードスターやCX-30にも通ずるプレマシーの走り
その後、ロードスター(現行モデル)に試乗した時、このときのプレゼンテーションを思い出したもの。
なるほど、マツダのクルマ造りはあのときのプレマシーと変わっていないわ、と。まるでポルシェのような、どのクルマも乗れば「ああ、コレMAZDAね」と分るようなハンドリング。これはマツダ3にもCX-30にも共通するものだ。
当時、プレマシーのこのハンドリングと乗り心地のバランスは、どのライバルをも凌駕していた。いや、現在でもあの頃のプレマシーに乗れば、誰もがコレいいね!というに違いない。
筆者自身、それまでマツダのミニバンがこれほど進化するとは思ってもいなかったのだ。
このフィーリングは現在のCX-8に共通する。プレマシーの生産終了とともにマツダはミニバンを卒業しクロスオーバーSUVの方向に舵を切った。そう、それがCX-8であり北米で販売するCX-9だ。
思い通りのハンドリング、しなやかで乗り心地を優先したサスペンション。だがCX-8はロードノイズというプレマシーが抱えていたテーマをしっかりと解決している。
人の声を遮るノイズ(周波数)を低減するという手法は、3列目との会話も大声を出さずに可能にしているのだ。
プレマシーのデザイン、なにもスタイリングにこだわっただけのものではない、凄いのはエアロダイナミクス。Cd値0.30というミニバンとしては驚異的な空力性能を持っていたのだ。
ミニバンなのに空力にもこだわる? 真摯なクルマ作り
もちろん、一番の目的は燃費の向上。開口部の大きなフロントグリルはエンジン冷却に必要なエアを確保。それによってエンジンルーム下に大型のカバーを装着でき、リフトの原因となる下面の空気の流れを整流していた。
また、ボンネット後端部に三日月形の形状をつけることでフロントガラスへの空気の流れをスムーズにしていたのだ。エアロダイナミクスに関しては前後のリフトバランスを最適化していた。
旧型でリアに対してフロントのリフトが少なかったことから、新型ではフロントのリフトを多少多くとって前後バランスを改善したのだ。
あの当時、ミニバンでここまでエアロダイナミクスにこだわっていたことは珍しい。確かに、ボディ下面を覗くとアンダーパネルはフロントに集中していて、フロントタイヤ前方など複雑な処理がされていた。
そのためフロントに集中するアンチリフトを、逆に落としていたというのだ。レーシングカーに例えれば、フロントのダウンフォースを落としたということ。
クルマを新しく造りかえればリアのリフトは減らせる、その時にフロントは本来のアンチリフトに戻せばよい。
惜しげもなく空力の内密情報を暴露してしまうあたり、やはり真摯に開発に取り組んでいる証拠であり、いつでもイイくるまが造れるという自信をあの頃のプレマシー開発陣に見ることができた。
軽量化でも当時のプリウスα(7人乗り)が1480kgに対して電動スライドドアという重い荷物のプレマシーは1500kgだった。
総合面でしっかりとクルマ造りを見つめ始めた今のマツダの原点を、あの時のプレマシーに見ることができると思うのだ。