FCVに注目集まる今こそ再注目? マツダが開発した水素ロータリーエンジン。試作車試乗で感じた可能性と課題、そして今後実用化する見込みは?
新型MIRAIが発表され、いよいよ水素を使った燃料電池車両(FCV)時代の幕開けがやってきた。
菅首相が所信表明演説で掲げた2050年までのカーボンニュートラル宣言を実現するには、水素エネルギーの活用が不可欠。“国策”という面からもFCVの未来は明るい。
しかし、それは今だから言えるコト。21世紀が始まったばかりの頃は、燃料電池はまだまだ“夢の技術”で、各メーカーが試作するFCVの形式もさまざま。
初期にはメタノール改質型をトライするメーカーが多かったし、ヒドラジン燃料を研究していたメーカーもあり、どの技術が天下をとるかわからないカオス状態だったのだ。
やがて、カナダのバラードパワーシステム社が、フッ素系樹脂を使った高効率な陽子交換膜を開発し、どうやら固体高分子膜型が本命という流れができたわけだが、それでもコストや耐久性の点で実用化までには大きなハードルがあり、FCVの実用化にはあと20〜30年かかると思われていた。
そんな時代に生まれたのが、水素を燃料とする内燃機関だ。
文/鈴木直也、写真/BMW、マツダ、トヨタ
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CO2ゼロの水素エンジンは過去にBMWもトライ
水素で電気を作るのが難しいなら、そのままエンジンの中で燃焼させればイイじゃん、という発想。理論上排出されるのは水だけで、FCVと同様にCO2ゼロを達成できる(実際にはNOX処理触媒が必要)。
この方式を熱心に研究していていたのがBMWで、2006年には5L・V型12気筒エンジンを搭載した7シリーズをベースに、ハイドロジェン7という試作車を走らせていた。しかし、BMWの技術をもってしても、このプロジェクトはモノにならなかった。
水素はガソリンに比べると圧倒的に着火しやすく、高温となるエキゾーストバルブ付近で容易に早期着火が起きる。
これを避けるためにはシリンダー内直噴が有効だが、気体の水素を高圧で噴射するには、あらかじめ水素をリザーバー内で高圧にしておく必要があって、ガソリン直噴のように簡単ではない。
また、BMWは圧縮水素ではなく液化水素を使っていたから、蒸発するガスをいったんリザーバーに貯蔵し、それでも溢れるボイルオフガスは触媒反応で水蒸気に変えて排出するなど、燃料貯蔵にどえらい手間がかかっていた。
要するに、単にエンジンで燃やすだけでも、水素は一筋縄では行かない難物だったのだ。そんな“難物”に日本から挑戦したのがマツダだった。
RX-8で試作! マツダの水素ロータリーに感じた可能性と課題
マツダの武器はいうまでもなくロータリーエンジンだが、これが水素との相性がものすごくいい。ロータリーエンジンの燃焼室は、ローターの回転とともに移動するから、燃焼が始まるプラグ付近と高温の排気ポートが遠く離れている。
それゆえ、レシプロ水素エンジンを苦しめた早期着火とは無縁で、吸気ポートに水素を噴射するだけで簡単に回ってくれる。
また、マツダは水素の貯蔵システムに関しても扱いの難しい液体水素ではなく圧縮ガスタンクを採用。最大圧力は最近のFCV標準の半分で35Mpaだったが、ガソリン燃料とのバイフューエル仕様だったから、実用航続距離には問題がなかった。
ただし、水素ロータリーのドライバビリティに関しては、あんまりいい思い出がない。
筆者は、マツダの水素ロータリー試作車にはRX-8とプレマシー両方に乗っているのだが、最初のRX-8ではパワーのなさにビックリだった。
まぁ、水素は理論空燃比で燃やした時の発生エネルギーがガソリンの半分程度だから、原理的に馬力が出ないのはしょうがないのだが、ガソリン燃焼モードに切り替えるといきなり元気になるので余計残念なイメージが強調される。
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