日本車が最も豊富なラインナップを誇っていたのは1990年代後半で、それ以降はトータルで見ると車種ラインナップは減少してきている。
21世紀に入り、グローバル化、高効率化が重要視されるようになったことでその傾向は顕著で、最も車種を減らしているのが日産だ。
日本のトップメーカーのトヨタは、他メーカーと逆行するように車種ラインナップを増やしてきていたが、販売チャンネルをなくし、全車全店扱いを2020年5月から全国展開。
さらに、今後、車種を大幅に削減することを明言している。
車種数の減少は販売の減少につながる可能性があるため、トヨタの販売戦略に対しても賛否あるが、本企画では、トヨタ、日産の販売戦略の現状と今後への期待について、御堀直嗣氏が考察する。
文/御堀直嗣、写真/TOYOTA、NISSAN、HONDA、MERCEDES BENZ、BMW、VW、池之平昌信
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消滅したビッグネームと不遇のビッグネーム
国内の大手自動車メーカーであるトヨタや日産の販売車種が削減されているとの印象を持つ人がある。
たとえば、トヨタからはマークXがなくなり、プレミオとアリオンが販売を終えるとの噂もある。コンパクトなワゴンとしてよく見かけ、福祉車両としても斬新な取り組みのあったラクティスも2016年で終わっている。
また意味は異なるが、クラウンはアスリートやマジェスタといった複数の嗜好の違いを排除し、一つのクラウンとしての販売を現行車種から始めている。
日産は、ティアナがこの夏に販売を終え、5ナンバー車のティーダはすでに2012年に販売を終了し、ノートに絞られた。
フーガやスカイライン、マーチは存続しているものの、いずれも10年前後モデルチェンジをしていない。こうしたことから車種が減っているとの印象を与えているところもあるだろう。
トヨタの35車種を販売
いっぽうで、トヨタは、近年のSUV(スポーツ多目的車)人気に加え、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の取り組みを背景に、C-HR、ヤリスクロスといった車種が新しく生まれ、ダイハツと共同開発となるライズも新たに加わった。これらの販売が好調だ。
スープラの復活もある。ワゴンではグランエースが登場した。そして、OEM(他車を自社の車名で販売する)によるダイハツの軽自動車もトヨタ車名で販売しているので、トヨタ車の一覧を見ると、35車種前後に達する。
永年にわたりトヨタの販売店は車種によって系列が分かれていたが、現在はどの店でも同じ車種を扱うようになっているので、たとえば一セールススタッフとして30~40台近い車種を扱うとなると、商品知識で頭のなかはパンクしそうなくらいではないか。
ほかに、トヨタは高級車ブランドであるレクサスも国内で展開している。
販売店規模からすれば日産の車種は少なすぎるわけではない
日産は、新しい車種といえるのはSUVのキックスくらいで、かつてと比べて増えたのは軽自動車の充実だろう。
カルロス・ゴーン元社長が軽自動車にも力を入れようと考え、三菱自動車工業と合弁会社NMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)を設立した。軽自動車を含めた合計は、20車種前後となる。
日産も、かつての販売店系列をなくしており、全国の販売店数はトヨタの約半分とみられるので、新車を売る側とすれば車種が少なすぎることはないかもしれない。
それよりも、スカイラインやマーチなど10年前後モデルチェンジのない車種があることのほうが問題ではないか。
メルセデスベンツ、BMWはラインナップ増殖
国内2大自動車メーカーに対し、輸入車ではドイツ勢が堅調で、販売車種はメルセデスベンツが20車種以上、BMWは30車種前後におよび、相当な数の選択肢を持つ。
メルセデスベンツではコンパクトSUVのGLBが新しく、またクーペの多さが目立ち、7車種もある。さらにはAMGに4ドア車が加わるといったこともあった。
BMWでも、永年の3、5、7という4ドアセダンを基本としたシリーズ以外の、クーペやカブリオレといった扱いとなる4、6、8と偶数で表されるシリーズが増えているのに加え、各シリーズに高性能車であるMが揃う。
もちろん、メルセデスベンツにも高性能車のAMGという選択肢が加わる。
こうしたことから、メルセデスベンツやBMWの勢いを感じるし、国内における輸入車販売でドイツ勢が堅調なことも頷けそうだ。東京都内を歩いていると、2台に1台が輸入車、なかでもドイツの高額車種といった印象を与えさえする。
それでも、国内市場における輸入車の占有率は2019年で6.7%と、10%に満たない。輸入車販売が大都市圏に集中し、それ以外で伸び悩んでいるからだ。
プレミアムブランドとフルラインメーカーが違って当然
輸入車も国産車も、近年はSUVの充実に力を注いでいることに間違いはない。そのうえで、先に述べたように、メルセデスベンツやBMWではクーペやカブリオレといった趣味性の高い車種も豊富にそろえる点が、トヨタや日産と違って見える。
理由は、メルセデスベンツにしてもBMWにしても、年間の世界販売台数が200万~250万台水準であり、付加価値の高いブランドであることを承知しているからだ。
逆にトヨタや日産は、トヨタが単独ブランドで970万台、ダイハツと日野自動車を含むグループ合計で1074万台になる。日産は約500万台だ。そして両社はフルラインメーカーであり、軽自動車も国内では戦力のひとつとなる。
自動車メーカーとひと言でいっても、販売台数と立ち位置によって車種構成の考え方は違って当然だ。プレミアムブランドと位置付けられるメルセデスベンツやBMWは、トヨタの4分の1、あるいは日産の半分程度の販売台数で収益を高めることを考え、付加価値の高い車種を増やすことが重要だ。
いっぽうで、フルラインメーカーとして世界で販売することにより大規模であることを維持しようとするトヨタや日産は、小型車から高級車まで世界の市場でどのように迎えられるかを視野に車種構成を考えなければならない。
単に車種を増やすだけでなく、世界的な共通化も視野に入れながら、効率よく売っていく戦略が必要になるだろう。その点は、同じドイツ車でもフォルクスワーゲンと似ている。VWの国内販売車種は、12車種ほどだ。
なおかつ、トヨタや日産のみならずホンダなどでも販売店系列を止めているとあれば、余分な車種を整理するのは当然といえる。
買い替えユーザーの心理
しかし現状のままでよいかというと、考えさせられる点もある。
たとえばトヨタのプレミオやアリオンの場合、カローラが3ナンバー車となりより上質なクルマとなったため代替の対象になるのではないかと自動車メーカーは考えるかもしれない。
しかし過去の歴史を知る消費者にとっては、車格を落としての買い替えとなり、心のうちに抵抗が生じるのではないか。
逆にプリウスやアクアのように新しく生まれた車種であれば、ダウンサイジングという世の中の動きもあり、時代に合わせた購入と自身を納得させることができるだろう。
SAIからカローラセダンのハイブリッドへ買い替えた人が近所に住んでいる。昔からの上下関係とは無縁の車種での買い替えは素直にできるという一例ではないか。
自動車メーカーの都合もあるだろうが、消費者心理といったことへの配慮も車種の統合の際には意識してもらいたいと思う。
日産に期待したいもの
日産には、5ナンバー車の拡充を期待したい。
現実問題として、ノート中心の車種構成であるため、たとえばティーダを愛用してきた消費者が買い替えに困っているとの声を耳にした。
ハッチバック車と、スポーツワゴン車のようなノートでは、近いけれども違うと感じる人もあるのだ。
トヨタヤリスやホンダフィットがきちんとした位置づけや販売動向を備えているのだから、マーチにもしっかりとした位置づけや戦略が欲しい。
スカイラインは、プリンス時代を含め日産を代表する永年のブランドであり、トヨタのマークXやレクサスGSが販売を止めているのだから、隙間を埋めるようにスカイラインらしさを示す名車として、また後輪駆動の4ドアセダンやクーペとして、次期モデルチェンジに期待したいところである。
消費者の心に残る取り組みをし続けることが重要
次々に目新しい新車を投入することはなくても、日本の消費者の心に響く車種構成を整えてもらえたら嬉しい。
たとえばホンダフィットは、日本に最適なコンパクトカーとして開発し、それを世界のグローバルコンパクトにしていきたいと開発責任者は語っている。
そうした心意気でモデルチェンジが行われたら、国内市場も輸入車だけでなく国産車を含め活気が生まれるのではないだろうか。
消費者の心に残る取り組みをし続けることで、やがて、所有から利用へ時代が大きく進展したときにも、選ばれる自動車メーカーとして生き残れるはずだ。