ベンツ本気のEV! 「EQS」を発表したメルセデスはEV戦略でも世界をリードするのか?


■自動車界をリードしてきたメーカーとしての矜恃

1997年に発売された初代Aクラス。二重の床構造を採用し、床下にバッテリーや燃料電池を置くことをこの時期から想定していたのだ

 高級4ドアセダンをEVとする構想は、英国のジャガーが先に公表したが、結果的には一時中断となっている。それに対し、メルセデス・ベンツが、EQS市販に力を注いだ背景には、メルセデス・ベンツが背負う、自動車を発明したメーカーとしての自負と責任があるからだろう。

 メルセデス・ベンツの哲学は「最善か無か」であり、目指す製品は「究極の実用車」である。

 永年にわたり世界の高級車として各国の元首や富裕層に愛用されてきたメルセデス・ベンツが実用車といわれると、腑に落ちない気がするかもしれない。

 しかし、昔からメルセデス・ベンツはどの大きさの車種でも運転しやすく、車両感覚をつかみやすく、大柄なSクラスでも小回りが利いて自在に操れると感じるクルマ作りを続けてきた。

 高級車であっても、便利で実用的であることから外れたことはない。それは、SLやGTなどスポーツ車でも同じだ。つまり、究極の実用車なのである。

 同時にまた、最善であることを目指すため、原理原則にしたがった開発が行われる。

 例えば、初代Aクラスは、2代目まで二重の床構造を採用していた。将来のEVや燃料電池車(FCV)のあるべき姿を模索するためだ。その床構造部に、バッテリーや燃料電池スタックを車載することを考えた。エンジン車でもこの二重の床構造を利用し、市販した。

 3代目からこの構造を止めたが、25年近く前からEV時代の本質の模索を行っていたのである。それは、米国カリフォルニア州でのZEV規制が発端であったかもしれない。

■EV時代に直6エンジンを新開発する意義

ベンツ直列6気筒エンジン。ターボと電動スーパーチャージャーに加え、モーター兼発電機が装着される

 前型のSクラスで2014年に直列6気筒エンジンを新開発し、搭載した。現行Sクラスでも継続使用されている。衝突安全性能を向上させるため、V型6気筒エンジンを採用してきたメルセデス・ベンツが、なぜ改めて直列6気筒エンジンを新開発したのか?

 モーター機能付き発電機(ISG)と、電動スーパーチャージャー、さらにターボチャージャーまで搭載したこの新直列6気筒ガソリンエンジン。

 モーター機能による低速トルクの補助と、電動スーパーチャージャーによるアクセル操作への素早い応答、そして回転が上がってからのターボチャージャーによる伸びやかな加速を利用したエンジン特性をつくることで、あたかもモーター駆動であるかのような乗り味を実現した。

 当然ながら、直列6気筒であれば振動は極めて少ない。一方の衝突安全については、エンジン前端に通常ある補器のためのベルト駆動部分をなくし、全長を短くして前面衝突時の衝撃吸収構造を損なわないようにした。

 EV時代を見据え、EVをエンジン車に似せて違和感をなくすのではなく、エンジン車をEVに近づけ、来るべきEV時代に違和感なく消費者を導こうとしているのがメルセデス・ベンツだ。その逆を考えるのが、日本の自動車メーカーだ。例えば、マツダMX‐30のEVが象徴する。

 Sクラスは、2009年にBMWと同じ機構を利用したハイブリッドを導入し、2014年にはPHEVも車種に加えるなどしながら、多くの人が購入するエンジン車でモーター駆動の運転感覚を経験させ、EQSの導入を迎えたと私は見ている。

 周到な地固めはメルセデス・ベンツが得意とするところであり、同時にまた、長期的に未来を見据えて基礎を積み上げ、自ら描いた未来像を確かめるしたたかな戦略でもある。

 改良していけばよいクルマができるとし、将来の具体像を描かないクルマづくりに比べ、自動車を発明した自負と責任が、メルセデス・ベンツには体現されているのである。

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