■欧米を中心に進む完全脱炭素化
世界の自動車メーカーは、脱炭素社会へ向けて相次いでEVを発表している。多くはSUVであり、メルセデス・ベンツも先にEQCとEQAを導入し、この先にはEQEやEQBも予定されているようだ。
また、英国のジャガーや米国のゼネラル・モーターズ(GM)、あるいはスウェーデンのボルボなどは、将来EVメーカーになることを正式に表明している。
これに対し、メルセデス・ベンツは電動化を推進する道筋は示しているが、将来EVメーカーとなるかどうかについて明確な表明はない。また現状、エンジン車の新型SクラスとEVのEQSを併売することになる。
しかし、EQSを発表する際に、工場の屋根への太陽光発電の導入と、それにともない工場内での電力の直流化や、車載バッテリーの再利用で定置型蓄電池としての利用、バッテリー製造時の脱炭素化などを実施し、2039年までに製造段階での脱炭素化を実現するとしている。
くわえて電動化という言葉遣いについては、EVとプラグインハイブリッド車(PHEV)であることを明言する。つまり、外部からの充電を前提とし、モーター走行を合理的にできるクルマを電動車と位置付けたのである。
したがってハイブリッド車(HV)やマイルドハイブリッド車は含まないということだ。これは、脱炭素に直結する定義づけである。
HVやマイルドハイブリッドは、二酸化炭素(CO2)や大気汚染物質の排出を減らしはするが、ゼロではない。このことは、30年前に米国カリフォルニア州で法制化がはじまったZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)の概念に通じる。
日本は、HVで先鞭をつけたことで、これら電動車が普及することが環境解決につながるとしてきたが、もはやCO2減らすだけでは不充分な時代に足を踏み入れている。それが菅義偉首相による脱炭素宣言だ。
そもそも30年前のZEV法が、減らすのではなく無くすことを定義づけている。それをメルセデス・ベンツは実行に移したのであり、EVメーカーを宣言した自動車メーカーも同様の決断を下したのである。
国内では、急な脱炭素は雇用に影響を及ぼすとの声も出ているが、30年前にその方向性は示されてきた。それにもかかわらず、減らせば済むと解釈したのが間違いである。環境問題に対する経営判断の甘さを露呈するばかりだ。他人の責任ではなく、経営者の見識不足が招いたことである。
ドイツにもそれはあった。HVの代わりにディーゼルターボエンジンで対処しようとした。しかし、ディーゼル排ガス偽装問題で、目が覚めたといえる。
■自動車界をリードしてきたメーカーとしての矜恃
高級4ドアセダンをEVとする構想は、英国のジャガーが先に公表したが、結果的には一時中断となっている。それに対し、メルセデス・ベンツが、EQS市販に力を注いだ背景には、メルセデス・ベンツが背負う、自動車を発明したメーカーとしての自負と責任があるからだろう。
メルセデス・ベンツの哲学は「最善か無か」であり、目指す製品は「究極の実用車」である。
永年にわたり世界の高級車として各国の元首や富裕層に愛用されてきたメルセデス・ベンツが実用車といわれると、腑に落ちない気がするかもしれない。
しかし、昔からメルセデス・ベンツはどの大きさの車種でも運転しやすく、車両感覚をつかみやすく、大柄なSクラスでも小回りが利いて自在に操れると感じるクルマ作りを続けてきた。
高級車であっても、便利で実用的であることから外れたことはない。それは、SLやGTなどスポーツ車でも同じだ。つまり、究極の実用車なのである。
同時にまた、最善であることを目指すため、原理原則にしたがった開発が行われる。
例えば、初代Aクラスは、2代目まで二重の床構造を採用していた。将来のEVや燃料電池車(FCV)のあるべき姿を模索するためだ。その床構造部に、バッテリーや燃料電池スタックを車載することを考えた。エンジン車でもこの二重の床構造を利用し、市販した。
3代目からこの構造を止めたが、25年近く前からEV時代の本質の模索を行っていたのである。それは、米国カリフォルニア州でのZEV規制が発端であったかもしれない。
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