■違和感のない運転席周り 固体高分子型燃料電池を搭載
フロント周りに専用のデザインが与えられたキャブは市販型のキャンターがベース。運転席の眺めも説明用にタブレットサイズの液晶画面がセットされていたほかは「eキャンター」と変わらない。
ステアリングコラム右下のパワースイッチでキーオン状態にしたあと、DUONIC(キャンターに設定されるデュアルクラッチ・トランスミッション)と共用のシフトレバーをDレンジに入れるとクリープトルクが発生、ブレーキを緩めれば走りだす。
変速機は1段の固定なのでアクセル操作に応じてトルクの途切れないスムーズな加減速がもたらされる。
搭載されている固体高分子型燃料電池は、高分子膜の一単位である「セル」あたりの出力は1ボルト以下と低く、多くのセルを直列に繋いで電圧を高めた集合体「スタック」として車両に搭載される。
発電量は水素の供給量によって制御されるが、BEV(バッテリー電動自動車)用バッテリーのような瞬発力は持たないため、モーターへの電力供給をバッテリーと燃料電池の双方から行なうことでアクセルペダル操作(要求加速度)に対する応答性を確保している。
連続出力の最大値は燃料電池の75kW+バッテリーの110kWだ。
■「eキャンター」より穏やかな加速感 架装物への電力供給機能も視野に
アクセルを深く踏み込むと水素供給システムの作動音が高まるが、加速感は総じて「eキャンター」よりも穏やかに感じられた。
7.5tのGVW(車両総重量)に対し、実用上で最適な動力性能をもたらす燃料電池とバッテリー搭載量のバランスは、今後の走行試験で注目されるポイントの一つで、当面はバッテリーパックを2基搭載してみるという。
バッテリーは燃料電池によって充電されるほか減速時には回生エネルギーの吸収も行なう。「eキャンター」用の充電機構が残されていればBEVの機能を併せ持つプラグイン燃料電池車とすることも可能だろう。
なお、架装物への電力供給機能についてはニーズの高い冷凍機のほかダンプ、塵芥車などを視野に検討を進めるとのことだ。
■「eキャンター」3倍の航続距離300kmが目標 将来的にはBEVとの棲み分けも
同じ電動車両でもバッテリーと燃料電池の得失のポイントはエネルギー密度にある。現行型eキャンターの航続距離は約100kmだが、「F-CELL」は目標300kmを謳い、システム重量も「eキャンター」より軽い。
また水素の充填時間は5〜10分と「eキャンター」のCHAdeMO方式による急速充電の最大1.5時間よりも大幅に短い。
高圧水素を充填する施設の普及や水素の製造~供給コストなど燃料電池電気自動車(FCEV)には未解決の課題も少なくない。
しかし実用化されれば高いエネルギー密度が求められる大型車や長い航続距離が必要な車両はFCEVに、一般的な小型車のように一日の走行距離の短い車両はBEV(バッテリー電気自動車)に棲み分けるといわれている。
「eキャンター」は、まもなく「2.0」と呼ばれる進化型の導入を明らかにしているが、いずれ小型トラックに於いてはBEVとFCEVを効率的に造り分けられるシャシー構造が設計の要件になるのかも知れない。
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