■MTの構造上、6速以上の多段化は難しい
MTは平行軸歯車だけのシンプルな構造から、駆動損失が少なく耐久性が高い(クラッチは消耗品で、乗り手で寿命が左右するが)のがメリットだが、ドライバーが変速操作を確実に行なうことを考えると、Hパターンのシフトでは6速までに限定されてしまう。
ポルシェはDCTとの共用を狙って7速MTを開発(アストンマーチンとコルベットにも採用例あり)したが、操作性を考えれば今後も6速MTが主流になるのは変わらないだろう。
しかしエンジンのトルクやモーターのアシストには限度がある以上、変速機の各段の減速比の差(ステップ比と言う)は限界がある。つまり8速や10速を誇るATには、変速比幅では敵わない、ということだ。
冒頭の欧州ユーザーが好むMTのメリットにおいて、燃費性能に優れているというのは、最新のATと比べると当てはまらないのである。
巡航時にはエンジン回転をいかに下げるか、ということがエンジンの燃費性能を引き出す大きな要素となる。であれば今や多段ATのほうが燃費性能に優れていることは明らかだ。
シフターをシーケンシャル化して、シフトレバーを前後に動かすだけでシフトアップ/ダウンできる機構にすれば7速以上に多段化したMTも可能だが、既存のMTのシフトワークに慣れ親しんだドライバーにとっては、理想のシフト操作とはいえなくなるだろう。
そもそもシーケンシャルシフトはドグミッション(ノンシンクロのMTで、走行中のシフト操作はクラッチ操作を省いて変速時間を短縮)のためにあるようなものだった。
パドルシフト同様、クラッチ操作を伴うシフトワークとしては何だか異端なイメージがある。これも慣れれば問題ないだろうが、現在MTを支持しているクルマ好きは、フロアシフトのHパターンを操って運転したいのだ。
副変速機を備えて、ドライバーのシフト操作を検知して副変速機を自動で制御すれば、Hパターンのまま8速や10速、12速といったMTを作り出すこともできる。
しかしそこまでしてMTを存続させようとするメーカーや支持するフリークが現われるだろうか。
■CVTの進化も侮れない、MTの未来は厳しい…
それにガラパゴス変速機とまでいわれたCVTも、驚くべき進化を遂げている。ジヤトコは今年になってCVTの新型CVT-Xを発表した。
これは欧州で販売されている日産キャシュカイに搭載されているCVTで、横置きながらチェーン式を採用して、ついに伝達効率90%を達成したのだ。
これはMTのおよそ97%、遊星歯車を使った一般的なATの95%前後と比べればまだ低いが、シンプルな構造でコストやスペース性も8速以上の多段ATより優れているとなれば、今後もパラレルハイブリッド用として使われ続ける可能性は高いだろう。
CVTでも変速や加速のフィールはかなり改善されており、燃費性能も優れているとあって欧米でも日本車のCVTは受け入れられつつある。
そうなるとMTはドライバーが運転を楽しむためだけの仕様となり、存続していくのはますます難しいだろう。
だが、これがモーターだけで走るEVとなると、また事情が変わってくる。なぜならモーターだけのバッテリーEVでは、多段変速機やCVTの必要性は薄い。モーターはトルクがあるから、ステップ比を大きくしても加速が鈍ることは少ないからだ。
加速における負荷が同じであれば、回転数が違っても消費電力はそれほど変わらないため、多段化するメリットはあまりない。
EVのレーシングカーであるフォーミュラEも当初は4速の変速機を搭載していたが、現在は2速しか搭載していないマシンも多く、変速機を搭載していないマシンも登場している。
そもそも変速機は、エンジンのトルクを増大したり、巡航時に燃焼回数を減らすことで燃費を向上させるためのデバイスであり、モーターを原動機とした場合、変速機による燃費(この場合は電費)の削減効果はあまり期待できないのである。
むしろATやCVTは動作させるために油圧を必要とすることから、油圧ポンプの駆動損失がEVにとってネックになりそうだ。ちなみに2速ATを採用しているEV、ポルシェ・タイカンは電動で多板クラッチを制御している。
それでもモーターの回転数には限度があり、出力の大きな大型モーターほど高回転域が厳しくなる(コイルの長さが長くなると、高速で回転させるのに限界がある)ため、変速機を組み合せたほうが幅広い速度域でモーターを効率良く使うことができるのも事実。
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