環境戦略優先しすぎでクルマが高額化! 軽自動車はどうなる?


■軽自動車への影響と、軽普及率が高い地方への影響は計り知れない

軽自動車の価格がフルハイブリッド化によって跳ね上がり、200万円以上も珍しくなくなる。軽自動車需要の多い地方はどうなるのか? 

 日本の自動車保有台数7800万台のうち、3100万台を占める軽自動車も、2030年度基準の影響を大きく受ける。正直、達成するのは非常に困難といってもいいかもしれない。

 先ほど見たように2030年度基準を満たしている軽自動車は現在存在しない上、2020年の販売台数トップ3の新燃費基準達成率を見ると、全車大幅未達。ホンダのNボックスが14.2~15.2%、スズキのスペーシアがマイルドHVなのに21.1~31.0%、ダイハツのタントが24.3~31.8%の未達となっている。

 マイルドHVでも燃費目標達成は難しいとなると、普通自動車同様にフルHVを導入しよう、という議論になる。だが、それにより車両重量が増加してしまえば意味がなくなってしまう。また軽自動車の美点でもあり、マイルドHVの美点でもある価格の安さも、フルHV化によって失われてしまう可能性が高い。

 軽自動車のドライバーの平均年齢は普通自動車対比で高く、急発進防止などの安全装備の充実が求められてきた。安全性を高めながら軽量化・省燃費を実現し、価格を抑えるという相反する難題をこれまで軽メーカーのたゆまぬ企業努力でなんとか実現させてきたが、もはやそれも限界に近づいている。

 総務省の小売物価統計調査では、2015年12月に133.7万円だった軽自動車の平均価格が2020年12月には154.8万円と15.8%の価格上昇となっている。軽自動車ユーザーの平均所得が2015年から2020年の5年間で16%近く増加しただろうか? 答えは明らかにノーだ。

 規制対応には軽くて小さくて高性能な部品が必要になる。量産効果で部品の価格が低下しないと、軽自動車の価格の高騰は避けられない。5年で16%価格が上昇したことを考えると、9年後の2030年度基準達成時には3割価格が上昇していてもおかしくない。そうすると、軽自動車の価格が平均で200万円を超えてしまう。

 軽自動車は公共交通機関が利用しにくい地域ほど普及率が高い。つまり地方では生活必需品なのだが、その値段が新燃費規制対応でさらに上がってしまうと相対的に地方に住む人たちの負担がより大きくなってしまうことになる。

 加えて、自動車の平均燃費が基準通り2030年まで4割以上向上すると、人口減少も相まってガソリンがより売れなくなり、地方のガソリンスタンドの経営がさらに苦しくなる。

 1994年のピーク時には全国で6万ヵ所あったガソリンスタンドも、今年3月末現在で2万9000ヵ所と半数以下に。2011年の消防法改正により、ガソリンスタンドの地下タンクが40年以上経過し老朽化した場合の補修が義務付けられたこともあり、ガソリンスタンドの廃業が加速している。

北海道では1つのガソリンスタンドがカバーする平均面積が東京と比べて21.9倍、岩手や島根も10倍超え、新燃費規制によりさらなるガソリンスタンド過疎化の進行が予想される(出典:経済産業省「揮発油販売業者数及び給油所数の推移(登録ベース)令和3年7月30日」、国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調(令和3年4月1日)より筆者作成」)

 ガソリンスタンドの「過疎化」が進んでいる都道府県の上位10をまとめた表を見ていただければわかる通り、各都道府県の面積を各都道府県所在のガソリンスタンドの数で割ったものが「1給油所当たりカバー面積」で、その面積が広ければ広いほどガソリンスタンドの過疎化が進んでいることになる。ご覧の通り、人口減少で悩む地域とガソリンスタンド過疎化が進む地域が重なっている。

 全都道府県でトップの北海道では、1つのガソリンスタンドがカバーする平均面積が東京の21.9倍、2位の岩手、3位の秋田も10倍を超える。そしてガソリンスタンドの数は2011年度末から2022年度末で2割減少し、地方のガソリンスタンドの過疎化がさらに進行しつつある。

 当たり前だがHV車も含めガソリンスタンドがなければクルマは走れない。燃費がいいクルマを買っても、ガソリンスタンドが遠くなってガソリンを入れに行くのに以前より多くのガソリンを使うというのもばかばかしい話だ。

 新燃費基準の導入により、地方のガソリンスタンドの数がさらに減ってしまえば、公共交通機関の利用しにくい地方がさらに不便になってしまい、さらに過疎化・人口減少が進むという悪循環が進む。

 地球環境保護とカーボンニュートラル化、日本の自動車産業の競争力の維持に向けて高いハードルを掲げて燃費の効率化を進めることにはまったく異存はない。

 だが副次的な悪影響として、軽自動車を中心とした自動車の価格上昇や、ガソリンスタンドのさらなる減少などが起こる可能性が高い。そういった悪影響を強く受ける地方に住む人たちと地方経済への目配りを忘れ、環境対策を最優先するのが本当に正しいことなのだろうか。

上汽通用五菱汽車が販売する全長2920mmの宏光ミニEVは約50万円~。4人乗り、最高速度105km/h、実用航続距離は約100km。日本では同等の2人乗りEVで160万円台~だ

 中国の自動車メーカーである上汽通用五菱汽車は、昨年7月に日本の軽自動車よりも小さいEV、宏光MINI EVを1台約50万円で発売を開始した。また乗用車ではないが、佐川急便は近距離配達用の約7200台の軽商用車を中国製のEVに切り替える計画を発表している。

 日本の自動車業界の競争力を高めるはずの政策により、日本の自動車産業が軽自動車から徐々に衰退していって中国産のクルマに市場を席捲されるようになってしまっては本末転倒だ。

 自動車の価格を低く抑えたままで燃費を改善させるには、先端技術を導入したうえで量産効果を働かせるのが一番の近道だ。

 例えば日本政府がインド政府に経済支援を行い、インドで電動車の購入に補助金を出す政策を採用すれば、年間新車販売台数が約380万台あるインドにて5割のシェアを持つスズキが量産効果により、これまで以上に安価な電動車を作ることが可能になる。

 それはインドの消費者やスズキの利益になるだけでなく、日本の、特に地方の消費者にとっても利益になる。

 またガソリンスタンドが少なくなってしまうのなら、地方で充電インフラを整備し、交通インフラを整える政策を打ち出す必要がある。

 もちろん特定の民間企業の利益のためだけに税金を使うことは難しいが、それぐらいドラスティックなことをしない限り日本の自動車産業の国際競争力は保てないかもしれない。

 欧州では2035年に完全ゼロエミッション化する規制の提案が出され、アメリカでも2030年までに新車販売の半数以上をEV、PHEV、FCV化する大統領令が発令された。中国でも2035年をめどにすべての新車がEVやHV化される。

 自動車の巨大市場である欧州、米国、中国の政策当局が決める環境政策によって日本の自動車メーカーが右往左往させられる状況を甘受するのではなく、経済産業省や国土交通省、環境省や外務省が政治家のリーダーシップのもとで自動車業界と足並みをそろえ、日本の総就業人口の8%を超える人たちが働く自動車産業と、地方を含めた日本全体のモビリティの将来像を、先を見越して戦略的に描いていくことを望みたい。

 そうでないと、日本ではクルマは金持ちだけのものに成り下がるか、日本の自動車市場が安価な中国製のEVによって席巻されることになりかねないのだ。

初代ワゴンRの価格は、売れ筋の「RX」が108万3000円(3速AT)。アルトやミラなど、それまでの背の低い軽自動車に比べて10万~15万円高かったが大ヒットした
マイルドハイブリッドを搭載する現行ワゴンRハイブリッドFXの価格は128万400円、NAエンジンのFAに比べて11万6600円高い。ただしハイブリッドFXにはフルオートエアコンやキーレスプッシュスタートなどの価格を差し引くとマイルドハイブリッドの価格上昇はアイドリングストップを含んで約7万円

【画像ギャラリー】2030年問題!? 環境対応で軽自動車の新車販売に危機迫る