■現時点で新基準をクリアしている軽自動車・クリーンディーゼルは1車種もない
こんなに厳しい2030年度燃費基準だが、自動車メーカー各社は基準を達成できるのだろうか。
以下の表は、最新の「自動車燃費一覧」(国土交通省まとめ、令和3年3月発表、令和2年末時点で新車販売された全車種をカバー)のガソリン/ディーゼルの乗用自動車・乗用軽自動車(ハイブリッドを含む)から、2030年度燃費基準を満たしている車種を抽出したものだ。同一車種の複数のグレードが基準を達成している場合、達成度が一番高いものだけ記載している。
データ集計時点で新基準をクリアしているのはわずか15車種、すべてがガソリンHV車だ。純ガソリン車、ディーゼル車、軽自動車のなかで基準に達している車種はゼロ。
メーカー別にみると、トヨタ12車種、ホンダ2車種、日産1車種が基準を達成。逆にいうとそれ以外のメーカー(レクサス、スバル、マツダ、三菱、スズキ、ダイハツ)は全車種が基準に未達だ。
各メーカーの代表的な車種の新基準達成率を見ていくと、加重平均ベースでの新基準達成がどれだけ困難かがわかるだろう。スバルは大半の車種で燃費を3~4割改善する必要があるし、マツダもSKYACTIVを開発したのにすべての車種で新基準を下回っている。
日本の2030年度新基準は車両重量対比での燃費を改善することを目指すが、欧州など国際的な流れは走行距離当たりでの二酸化炭素排出量を削減することがフォーカス。
効率がよいクルマの研究開発が進むのはもちろんいいことだし、日本と海外の政策は必ずしも矛盾するものではないが、マツダなど欧州への輸出比率が高いメーカーでは両者を満たす必要があり、目標達成の難易度がより高くなっているかもしれない。
■軽自動車への影響と、軽普及率が高い地方への影響は計り知れない
日本の自動車保有台数7800万台のうち、3100万台を占める軽自動車も、2030年度基準の影響を大きく受ける。正直、達成するのは非常に困難といってもいいかもしれない。
先ほど見たように2030年度基準を満たしている軽自動車は現在存在しない上、2020年の販売台数トップ3の新燃費基準達成率を見ると、全車大幅未達。ホンダのNボックスが14.2~15.2%、スズキのスペーシアがマイルドHVなのに21.1~31.0%、ダイハツのタントが24.3~31.8%の未達となっている。
マイルドHVでも燃費目標達成は難しいとなると、普通自動車同様にフルHVを導入しよう、という議論になる。だが、それにより車両重量が増加してしまえば意味がなくなってしまう。また軽自動車の美点でもあり、マイルドHVの美点でもある価格の安さも、フルHV化によって失われてしまう可能性が高い。
軽自動車のドライバーの平均年齢は普通自動車対比で高く、急発進防止などの安全装備の充実が求められてきた。安全性を高めながら軽量化・省燃費を実現し、価格を抑えるという相反する難題をこれまで軽メーカーのたゆまぬ企業努力でなんとか実現させてきたが、もはやそれも限界に近づいている。
総務省の小売物価統計調査では、2015年12月に133.7万円だった軽自動車の平均価格が2020年12月には154.8万円と15.8%の価格上昇となっている。軽自動車ユーザーの平均所得が2015年から2020年の5年間で16%近く増加しただろうか? 答えは明らかにノーだ。
規制対応には軽くて小さくて高性能な部品が必要になる。量産効果で部品の価格が低下しないと、軽自動車の価格の高騰は避けられない。5年で16%価格が上昇したことを考えると、9年後の2030年度基準達成時には3割価格が上昇していてもおかしくない。そうすると、軽自動車の価格が平均で200万円を超えてしまう。
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