■スバルがMT車に衝突被害軽減ブレーキを採用しない理由はエンスト?
スバルが6速MTにアイサイトを採用しない背景には、別の理由もあるのではないか。
この点も尋ねると、6速MTの場合、衝突被害軽減ブレーキの作動でエンジンが停止する課題もあるようだ。
例えば5速や6速などの高いギヤで走行中、衝突被害軽減ブレーキが作動したとする。エンジン回転数は1500~2000回転まで下がっているから、この状態で強制的にブレーキを作動させると、ドライバーがクラッチペダルを踏まなければ、あるいは踏むタイミングが遅ければ、エンジンが停止する可能性もある。
ATなら衝突被害軽減ブレーキを作動させてもエンジンは停止しないが、MTではその心配も生じる。
エンジンが停止した状態で、ブレーキペダルを数回にわたって作動させると、次第に真空倍力装置が正常に作動しなくなって制動力も下がってしまう。パワーステアリングの機能によっては、作動が停止して、操舵力が極端に重くなる。
スバルはさまざまな危険性を考慮するので、衝突被害軽減ブレーキの作動に伴うMT特有の弊害を懸念して、装着に対して慎重になっていることも考えられる。
しかしMTに衝突被害軽減ブレーキを装着したことによるメリットとデメリットを比較すれば、メリットが勝る。弊害についていえば、衝突被害軽減ブレーキが作動すると、衝突の被害軽減や回避が行われると同時に走行速度も一気に下がる。真空倍力装置の性能が低下しても、大半の場合は停車が可能だ。
またMT車のユーザーであれば、衝突被害軽減ブレーキが作動して速度が下がると、反射的にクラッチペダルを踏むだろう。MT車では、各ギヤが受け持つ速度域と、エンジン回転数の関係を無意識に把握しながら運転しているからだ。
通常の走行でも、ブレーキを強めに作動させて速度が大きく下がると、その度合いに応じてドライバーはクラッチペダルを自然に踏む。エンジンストップのミスは生じにくい。
衝突被害軽減ブレーキと親和性の高いトランスミッションは、車両側が作動を綿密に制御できるATではあるが、MTの装着を否定するものではない。
■86/BRZの6速MTにも衝突被害軽減ブレーキは必須になる
実際にほかのメーカーの6速MTは、衝突被害軽減ブレーキを組み合わせている。マツダは6速MTの設定が豊富で、衝突被害軽減ブレーキは、ロードスターやマツダ2を含めて幅広い車種に装着されている。
トヨタであればヤリス&GRヤリス、カローラセダン/ツーリング/スポーツなどの6速MTにも採用した。スズキもスイフト&スイフトスポーツ、軽自動車のジムニーにも、MTと衝突被害軽減ブレーキの組み合わせがある。
ちなみに衝突被害軽減ブレーキは、今後の義務化が決まっている。国産乗用車については、新型車が2021年11月、継続生産車も2025年12月以降は、衝突被害軽減ブレーキを装着せねばならない。
BRZの6速MTも、2025年12月までには、アイサイトコアテクノロジーを装着することになるわけだ。それなら早めに対応するほうが好ましい。
特にトヨタは、前述のとおりヤリスなどのコンパクトカーも含めて、6速MTに衝突被害軽減ブレーキを装着している。86の装備内容は現時点では不明だが、BRZの姉妹車だから、6速MTには設定されないだろう。
そうなるとトヨタとしては、衝突被害軽減ブレーキに関して、各車種の統一が取れなくなってしまう。その意味でも、BRZを含めて、早い時期に設定することになると思う。
この点を販売店に問い合わせると、スバルでは「BRZの6速MTにアイサイトを追加する時期は不明」という。トヨタは「86に関する詳細な情報は、装備を含めてメーカーから聞いていない。予約受注の時期も、おそらく9月とは思うが、8月下旬の時点では知らされていない。衝突被害軽減ブレーキについても不明」とのことだ。
それでも衝突被害軽減ブレーキは、クルマにとって最大の欠点とされる交通事故の防止に優れた効果を発揮する。BRZと86は、スポーツカーでは販売台数が多いので、全車に標準装着されると事故防止の効果も高まる。なるべく早い時期に、6速MTにも採用して欲しい。
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