ヤリスHVがノートとフィットHVよりリッター6km以上も燃費がいい理由

■トヨタTHSに対抗する切り札を探し続けたライバルメーカー

ノートに搭載の第二世代のe-POWER。エンジンを発電専用とすることでTHSと比較するとシンプルなシステムだ。市街地や郊外モード燃費は優秀だが、常に発電を伴う高速走行燃費が悪化する
ノートに搭載の第二世代のe-POWER。エンジンを発電専用とすることでTHSと比較するとシンプルなシステムだ。市街地や郊外モード燃費は優秀だが、常に発電を伴う高速走行燃費が悪化する

 ホンダや日産のハイブリッド車は当然、トヨタのTHSに対抗して燃費性能を高める努力はしているものの、今やその差は開くばかりだ。その理由について考えてみよう。

 トヨタは近年、THSの基本特許を公開しているが、かつて日産が北米向けのセダンに採用したことがあったもののトヨタグループ内でもOEM以外ではほとんど利用されていない。例外はマツダのアクセラハイブリッドくらいだろう。

 やはり自動車メーカーとしては、自社の技術力をアピールすることがブランドイメージにつながり、ユーザーに選んでもらえるものだという考えが根強い。OEMや技術供与を受けるのは、確立されたブランドの自動車メーカーとしては恥と考えるようだ。

 したがって自社開発のハイブリッド技術で勝負するというのは、自動車メーカーとして真っ当な戦いぶりだとはいえる。

 しかし、ホンダはアイデアの豊富さがアダとなった面は否めない。コンパクトカーのハイブリッドに限っていえば、世代毎にそのデバイスは大きく変化しており、それまでのノウハウを活かすことが出来なかったのはホンダの勿体ないところだろう。

 それに対してトヨタのハイブリッド車はTHSという画期的なシステムがベースにあったことで、それを磨き込んでいくことにより、燃費性能を確実に向上させてきた。

 MG2(駆動用モーター)に減速機構を追加してモーターを小型化するなどハード面を熟成させるだけでなく、制御面であるソフトウェアも従来のモノをベースに、さらに省燃費を追求して細かな見直しをして煮詰めてきたのだ。

 これまでほぼ四半世紀、累計1810万台ものTHS搭載ハイブリッド車を開発、生産してきたトヨタならではのノウハウの深さが、ヤリスハイブリッドには注ぎ込まれている。

 そのうえで、徹底的に燃費を追求して満を持して登場したのがヤリスハイブリッドなのだ。さらにちょっぴり高級感や快適性を高めたSUVのヤリスクロスや、リーズナブルで実用性の高いSUVのカローラクロスハイブリッドもデビューしている。

 どちらも燃費性能と車両価格のコストパフォーマンスにおいては、同クラスで敵なしの状態。少なくとも5年は、この無敵状態が続きそうだ。

 ハイブリッドの性能に関しては勝負あった、という状態。それだけに海外のライバルメーカーもトヨタのハイブリッドを排除したいという姿勢を見せるのだろう。

 このところクルマの環境性能を高める=EV化という短絡的な発想があちこちで見られ、ハイブリッドは排気ガスを出すために排除されそうな傾向が見える。

 しかし、実際にCO2削減効果を考えた時、手頃な価格で高い実用性を備え、なおかつCO2を削減してくれるクルマでなければ結局、ユーザーに選んでもらえないことにも気付くべきだ。

 今売れてるクルマを排除して、無理やりEVを買わせるような政策は、欧州でも国民に受け入れられるのだろうか。

 2035年のハイブリッドの環境性能は、今よりもさらに格段に向上しているだろう。それをバイオ燃料で走らせることも、カーボンニュートラルを達成する手段になるハズだ。

■JC08モード燃費の時代、各社は燃費スペシャルのクルマで燃費を競い合った

3代目フィットは車重を軽くし、燃費を伸ばすために燃費スペシャルのグレードのみ、アルミボンネットを装着(価格は3万8500円)し、燃料タンクも8L少ない32Lに変更。アクアのJC08モード35.4km/Lを上回る36.4km/Lを達成し、国内HV車の最高燃費と大々的に宣伝された
3代目フィットは車重を軽くし、燃費を伸ばすために燃費スペシャルのグレードのみ、アルミボンネットを装着(価格は3万8500円)し、燃料タンクも8L少ない32Lに変更。アクアのJC08モード35.4km/Lを上回る36.4km/Lを達成し、国内HV車の最高燃費と大々的に宣伝された

 最後に、“燃費スペシャル”について紹介しておきたい。WLTCモード燃費の計測では、JC08モード燃費時代に一部車種に設定されていた、慣性質量(車重)の変化による計測時の燃費向上を狙って、軽量化を施した“燃費スペシャル車”が設定しづらくなっている。

 それでも、依然として一部モデルでは、ベーシックグレードとして“それらしき”仕様が存在することは残念としかいいようがない。WLTCモード燃費導入の効果として、購入者を惑わすような仕様設定が無駄な努力として消え去ることを願いたい。

燃費スペシャルの実態は、数値だけの空虚なグレードであることが分かる 

 クルマの燃費はシャシーダイナモメータで測るが、この時には車両重量による慣性を再現するためフライホイールを使う。フライホイールは、車両重量に応じて重さの異なる数種類が用意され、この重量を等価慣性重量と呼ぶ。

 ちなみに等価慣性重量の上限になる車両重量は、740kg/855kg/970kg/1080kg/1195kg/1310kg/1420kg/1530kg……、という具合に続く。車両重量が上記の数値になる場合、等価慣性重量に着目した「燃費スペシャル」の可能性が高い。

 等価慣性重量が軽いと燃費数値も好転するため、例えば先代フィットの場合、JC08モード燃費が37.2km/Lに達するベーシックなハイブリッドは、燃料タンク容量がほかのグレードよりも8L少ない32Lになる。

 ボンネットはアルミ製。これにより車両重量を1080kgに抑え、等価慣性重量を1130kgとした。車両重量が1081kgになると、等価慣性重量は一気に1250kgまで増えるから、燃費数値が見かけ上は大幅に悪化してしまう。

 しかも装備も簡略化され、受注生産だから納期も長い。営業マンは装備が充実していて、燃費が多少悪くても1つ上のグレードのほうがいいですよと薦める。

 燃費スペシャルは、最高燃費と宣伝用に使われたグレードでほとんど売れなかった……、というよりむしろ売りたくないグレードだったのだ。

 現行フィットの開発責任者は、現行フィットを開発している段階で、先代の時のような無理やり燃費をよくした手法について、社内で議論が交わされ、現行フィットでは無理に燃費の延ばすグレード展開などは設定しなかったと言っていた。

 いわば燃費スペシャルをやめたという訳だが、これが今、ここまでヤリスに販売差を付けられると、なんとなく正直者は馬鹿を見る感覚で少し寂しい気分になってしまう。

 トヨタプリウスは、大半のグレードが燃料タンク容量を43Lとするが、Eだけは38Lだ。

 装備も簡素化して、車両重量を先に述べた1080kgの2つ上の設定区分になる1310kgに抑えた。これによりJC08モード燃費は40.8km/Lとなった(発売当時)。

 現在のプリウスE(車重1320kg)のWLTCモードは32.1km/L。1つ上のS(1350kg)は30.8km/L、装備が充実したツーリングセレクション(1360~1380kg)は27.2km/Lとガクッと燃費が落ちる。

 いずれにしても低燃費を宣伝するための客寄せパンダ的なグレードはもうやめてもらいたいものだ。

元祖ハイブリッド車として登場して現行で4代目。JC08モード燃費時代には当初トップだった燃費もWLTCモード燃費の現在では32.1km/Lと3位に落ちた
元祖ハイブリッド車として登場して現行で4代目。JC08モード燃費時代には当初トップだった燃費もWLTCモード燃費の現在では32.1km/Lと3位に落ちた

【画像ギャラリー】日本車の最新燃費トップ10に見る、トヨタハイブリッドの凄さとライバルにある差は何なのか?

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