■システムは用意されているが現場の実情は?
しかし、最近ディーラーをまわって“その後”を聞いてみると、「いまだにオンラインで販売したことがない」ならまだしも、「いまはやっていません」という答えも複数のディーラーから返ってきた。
あるメーカー系正規ディーラーのセールスマンは、「オンライン商談といっても、そもそも新規(初めて新車を買う)で新車購入されるお客様はほとんどおりません。そのため、下取り車があって当たり前なので、まず下取り査定をしないと商談が進みません。
下取り査定はその作業の流れもあり、店頭で行うのが原則ですが、ごくまれにお客様の自宅など、指定先に出向き行うこともありますが、オンライン上では実車を画面上でしか見ることができないので、かなり厳しいです。また商談が進んでくると値引きアップなどの決裁を店長に仰がなければなりません。
そうなると、上司決裁をもらう間などは、画面からフレームアウトしますし、その時間は結構長引くでしょう。そのためオンライン商談を希望されるお客様へ事情を説明し、『店頭にいらしたほうが効率的に進みますよ』と店頭に呼び込むスタッフもおります。
ショールームは天井も高く広いですし、業界団体のガイドラインに沿った感染拡大予防策を徹底しておりますとご説明すれば、たいていはご納得していただけます」とのこと。
また新車販売の現場では、“鉄は熱いうちに打て”という言葉がある。お客が“買う気”になっているうちに、“値引きアップなどで一気に攻め込んで受注につなげろ”という意味がこめられている。
しかし、オンライン商談は事前にオンライン上で、日時を指定して申し込みをするケースがほとんど。
お客さんとしては申し込みをしている時は、結構買う気が高まっているのだが、後日、いざオンライン商談となると“鉄は冷めてしまっている”というテンションとなっていることも多く、店頭より成約率が低いとするセールスマンもいた。
■対面とオンラインを顧客世代によって棲み分け
結論からいえば、販売現場となる新車ディーラーでは、スタッフ個々や店舗、販売会社によって、オンライン商談への取り組む姿勢が異なることはあるだろうが、総じていえば否定的な様子が伝わってくる。
それは、売る側だけでなく、買う側も年配層がメインとなるので、基本的に買い物は自分の足を使って外へ出かけて買うのが基本(とくに新車は)との認識も強いので、店頭に出向いてセールスマンと商談を行うことを、あまり不便と感じていないことも大きいと考えている。
また、昨今は車検などの法定点検は店頭へ持ち込むのが当たり前となるので、コロナ禍といえどもディーラーへ出かける必要が出てくるので、「点検が終わるのを待っている間に」とセールスマンが商談を持ちかけるのは、いまの新車販売の世界では当たり前となっている。
ただし、オンライン商談を全面的に否定しているわけではない。「いままで出会えないような、新しいお客様との接点になる」と前向きに考えているセールスマンもいる。
ただ、Honda ONのターゲットとしては“ジェネレーションZ(1990年代半ばから2000年代前半生まれ)”としているので、このジェネレーションZは新車販売の世界では次世代の販売促進対象のボリュームゾーンと考えられる。
“生まれた時から”はオーバーかもしれないが、物心ついた時にはすでにスマホが手元にあった世代なので、リアルワールドで何かをやることは基本的に“ウザい”と感じる世代なので、新車ディーラーへ行くこと自体もウザいことに決まっている。
ホンダがこのタイミングでオンライン販売をスタートさせたのは、まさに次世代の販売促進ボリュームゾーン世代に向けて、長い間ホンダユーザーとなってもらいらいたいとして取り込む“青田刈り”を意識したものなのかもしれない。
まだまだ、店頭販売が新車販売の“メインディッシュ”となるだろうが、“サイドディッシュ”としてオンライン販売を用意しておくといった感じが、今後新車販売業界ではしばらく続くかもしれない。
■販売力の大きなトヨタが普及のカギを握る
普及については、そのスピードも含めトヨタの反応がすべてを握っている。国内販売で圧倒的シェアを持ち、販売力も強大なトヨタが積極的な取り組みを見せない限りは、オンライン販売の普及はあまり期待できないだろう。とにかく、トヨタがどのような動きを見せるかに今後は注目していく必要がある。
ただし、「オンライン販売はじめました」だけでは、なかなか普及していかないだろう。とにかく80年代から新車販売の世界は考え方も含めて基本部分は大きく変化していない。そのようなアナログ的な、いまの新車販売の流れをデジタルに対応できるように変革する必要がある。
Honda ONはメーカー主導によるオンライン販売といえよう。そしてオンライン販売は“無店舗販売”となるので、街なかのディーラーで新車を購入するより、圧倒的な買い得感を持たせなければならなくなるだろう。
ただ、スマホで買える便利さを出すには、当然交渉なしで買い得価格になるような、“ワンプライス”表示となるだろう。そうなると、ひと目でそのワンプライスがどこよりも買い得であることがわかる、第三者による“指標”が必要となってくる。
アメリカでは、第三者による“販売原価”情報提供サービスが複数存在する。消費者のなかには、この情報をベースにディーラーがいくら利益を上乗せして売っているのかを判断し、より割安に販売しているディーラーで購入するケースもあるとのこと。
このような指標がなければ、結局複数のディーラーをまわり、オンライン販売が最安値かどうかを確認できないと、なかなかスマホだけでは購入は決意できないだろうし、結局出かけなければならないことにもなりかねず、あまり意味はなくなるだろう。
例えばKINTO(トヨタの個人向けカーリース)では、“オプションのホワイトパールマイカを無料にします”といった表記がウエブ上にあった。単純な現金値引きではなく、メーカーオプションの無料装着などで買い得感を示していくのは有効かもしれない。
また、9月14日に正式発売となったカローラクロスでは、中間グレードのSについて、一般ディーラー向けの生産開始は2022年2月以降となるが、KINTO向けについてはすでに生産が始まっている。
カローラクロスもご多聞に漏れず、現状は深刻な納期遅延が続いているが、それでも店頭でSを購入するよりは納車は早くなるだろう。単に支払い条件だけでの割安イメージ追求ではなく、このようなオンライン販売ならではのプレミアム感を持たせた売り方も有効のように見える。
さらに、残価設定ローンを組んで購入する時は、オンライン販売専用の高い残価率の設定などもいいかもしれない。
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