■納期遅延はメーカーにもよる
「そんなに待てない」というひとは、少々汗をかいてでもディーラー在庫車を探し、そこから買うということもできる。あくまで現場で聞いた話だが、日産車はそれほど深刻な納期遅延は発生していないとのこと。
「ノート オーラは3、4カ月ほどお待ちいただきますが、これは人気が高く、多くの受注を頂いていることのほうが大きいです」とは、日産系ディーラーセールスマン。コンパクトクロスオーバーSUVのキックスはウエブサイト上にも、“納期1カ月”とされている。
また、軽自動車メインとなるようだが、ディーラーごとに“すぐ乗れる新車在庫”として、日産系に限らず在庫車を自社ウエブサイトなどで公開しているところもある。
あくまで新車にこだわり、すぐ乗りたいとするならば、どんな在庫があり、そのなかにお気に入りを探すことになるだろう。つまり、“納期の短いクルマ”を最優先条件とし、メーカーや車種にはこだわらない新車購入となる。
輸入車についてはブランドごとに状況の差はあるようだが、筆者が聞いた某ドイツ系プレミアムブランドでは、発売したばかりの新型車など一部を除けば日系ブランドが騒ぐほど自体は深刻な状況ではないとのこと。
輸入車の場合は生産地から船積みし、日本に陸揚げするまでヨーロッパからだと、だいたい4カ月ほどかかるそうだ。つまり、いまのような事態がより深刻になる前の生産分が陸揚げだけではなく海上輸送の途中にあるので、そのタイムラグが日系ブランド車ほど事態を深刻なものにさせていないと説明してくれた。
ただし、いまのような状況が続けば今後はシビアな状況になっていくことも十分あるとのことであった。
■納期遅延は貴重な人材への影響も
納期遅延は販売現場の人材流出も招きかねない事態に追い込まれている。
新車を販売するセールスマンには、“目標販売台数(いまはノルマという表現は使わないが、ここではわかりやすくノルマと呼ぶ)”が、年間目標に基づき単月ごとに目標台数が設定されている。そして、ノルマの達成度合いに応じてセールスマージンが支払われる。
ただし、このマージンが発生するのは受注した台数ではなく、当該月に何台新規登録(軽自動車は登録/ナンバープレートの発給)できたかでカウントされるのが大原則。
「受注台数はおかげさまで目立って減っているということはありません。しかし、新車が届かないので新規登録及び納車ができません。2021事業年度締めでの上半期末となる9月は半期決算期となります。
しかし、2021年9月はセールスマンひとりに1台、当該月新規登録可能な新車が割り当てられればまだマシで、0台というスタッフもおりました。
マージンありきの給与体系なので、マージンがつかないと生活が成り立ちません。最近はワクチン接種も進み、経済活動が再開してきております。好調業種の多くは人材不足にもなっておりますので、このままでは離職するセールスマンが目立ってくるかもしれません」とは、某現役セールスマン。
セールスマンが追い込まれるということは、ディーラー個々も追い込まれていることになる。単純に「新車が売れない」のではなく、「新車が売れているのに、納車ができない」ことで生活困窮に追い込まれかねない、今の販売現場の状況はなんとももどかしいものに見える。
優秀なベテランセールスマンが離職すれば、それをフォローするために複数の新規採用をしなければ追いつかない。“セールスマージンの前払い”など、ディーラーも一時的でいいので、何らかの対策を打つ時期にきているようだ(すでにフレキシブルに対応しているディーラーもあるようだ)。
深刻な納期遅延となっても、新車販売台数は前年比でも減少しているもののゼロにはなっていない。
「何も正確な情報をお伝えできないかなでも、自分たちを信じて契約してもらえるお客様がいることはありがたい」とは、前出のトヨタ系ディーラーセールスマン。購入してもらってからも、顔をつなぎ、信頼関係を構築してきた“お得意様”に支えられているのがいまの新車販売の現状といえるだろう。
これが今後、新車販売をAIが請け負うことになったら……、いまのようなお得意様との信頼関係が構築できるのか、オジさん世代の筆者としては甚だ疑問だ。
いまのような非常時になると、“売ること”しかできないAIでは、“買ってもらう”ことができず、“受注台数自体がゼロ”というのも冗談ではなくなるのではないかと少々心配になっている。
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