■FRの安定性を補うための4WD
一方、アウディは初めから4WDの走破性を備えた快適な乗用車を作ることが目的であったのでセンターデフ式が採用されています。ちなみに国産初のフルタイム4WDは1985年に登場したマツダのファミリア4WDだったりします。
話が逸れましたが、FRの縦置きエンジンはエンジンの後ろにトランスミッションが伸び、その後ろからプロペラシャフトが伸びでリヤに駆動を伝えています。4WDを作る場合は、トランスミッション後端部にトランスファーを設けこれを介して前輪へ駆動力を振り分けてやればいいわけです。
じつはこのレイアウトは、縦置きエンジンのパートタイム式と同じものです。駆動トルクの断続ギヤをクラッチに置き換えてやればフルタイム式4WDになるわけです。実際このタイプ(ある意味オンデマンド式とも言えます)のFRベース4WDは多くあります。
タイヤは駆動力が増すとそれに応じて旋回グリップ力が小さくなる特性を持っています。FRベースの4WDの多くは多板クラッチ式を採用しており、基本は後輪駆動になっています。
もちろん常に前輪に駆動トルクが配分されているクルマもありますが、ハンドルを切る場面では前輪に駆動力があまりかかっていないほうが曲がりやすいのです。基本は後輪が駆動して、タイヤがスリップするような場面になると前輪に駆動トルクを配分して安定性を高めます。
前輪が少し引っ張ってくれるだけでクルマはスピンしにくくなりとても安定性を増すのです。この特性を積極的に使ったのがGT-RのアテーサE-TSです。
FFがベースのオンデマンド式4WDは、フロントデフまでミッション内に一体で作られていて、そこからパワーアウトレットのトランスファギヤを介して後輪に駆動トルクが配分されます。
たいていのFF車ベースの4WDはリヤデフ直前に電磁クラッチや電子制御カップリング(クラッチシステム)を設けることで後輪への駆動トルク(配分)をコントロールしています。
駆動トルクが前輪を主体に、必要に応じて後輪へ配分されるので、どうしてもフロントタイヤの負担が大きくなります。
ただ、前輪への負担が大きいFFだから曲がりにくいわけではありません。
タイヤがめったに滑らない乾燥舗装路で、電磁クラッチや多板クラッチを繋げて後輪に駆動配分を振り分けているとき、クラッチは半クラ状態になり、パートタイム式のようにロックはしていませんが、前後輪に差動制限がかかったのと似た状態になります。
前後輪の回転差が制限されるので安定性が高くなる(≒曲がりにくくなる)のです。そのため最近のFF車ベースの電子制御カップリングを使った4WD制御は、コーナーではリヤへの駆動配分を少なめにして曲がりやすくしているクルマが多いようです。
センターデフ式の場合は、センターデフの前後駆動トルク配分と、前後の車軸重量バランスによって基本的な操縦性は決まります。
最近のセンターデフ式フルタイム4WDが前後のトルク配分を、40対60とか31対69といった具合に後輪寄りにしているのは、アンダーステアを少なめにするのが目的と言っていいと思います。前輪への駆動配分が少ないということは、前輪はその分だけ曲がる力を多く引き出すことができるからです。
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