ブランドとして、ワクワク感の重要性
こうした3つの社会変化を踏まえたうえで、日産が次の10年で目指すのは「ワクワク感」だ。モデルとしては当然、「フェアレディZ」を筆頭とするスポーツカーや、グローバルでトレンドとなっているクロスオーバー系の新型車による、「ワクワクするスタイリングと、ワクワクする走り」だ。
そうした新型車を様々な領域のパートナーと連携し、広義での移動体であるモビリティとして、またIT技術を駆使してデータを最大限活用するスマート社会の実現するという。その流れのなかで、電動化を一気に推し進める。
具体的には、今後5年間で約2兆円という当時額を示した。新型モデルについては2030年度までにEV15車種を含む23車種を市場導入する。また、次世代の電池として期待されている全固体電池を2028年までに量産化を目指す。こうした総合的な電動化戦略によって、2030年度までに、日産とインフィニティを合わせてグローバルでの電動化比率50%以上を実現するとしている。
さらに、いま(2021年)から2030年度までの中間地点である2026年度までの目標値についても明記している。それによると、EVとe-POWER搭載車を合わせて20車種以上とする。また、新車での新車販売比率を、欧州で75%以上、日本で55%以上、そして中国では40%以上に定めた。またアメリカについては、2026年度までの目標値をあえて市目指す、2030年度までにEVで40%以上と発表した。
EV先駆者としての現実的な事業戦略
「Nissan Ambition 2030」における電動化戦略の全容が明らかになり、筆者としては「実に現実的な視点を持った、EV先駆者の日産らしい物事の進め方だ」と感じている。
肝は、仕向け地別でどのような戦略を打つかだ。言い換えれば、グローバルで電動化の流れがバラバラだということだ。
そんなバラバラ感は、COP26(国連気候変動枠組条約・第26回締結国会議:英国グラスゴー)で行われた自動車の電動車に関する発表でも明白だ。英国やスウェーデンなど欧州でも一部の国が賛同し、アメリカと中国、そして日本は含まれていない。いっぽうで、米国カリフォルニア州やテキサス州ダラスなど地方行政府、またメルセデス・ベンツやGM、FORDあど一部メーカーが賛同するといったバラバラ感である。
もう少し仕向け地別の事情を見ながら、日産の出方を検証してみる。欧州では、欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)が強く推進する欧州グリーンディール政策がグローバルで電動化のドライバーとなっている。2035年までに欧州内新車はZEV化(事実上のEVと燃料電池車)を目指すとしており、日産としてはEVの拡充をしつつ、e-POWERがバックアップする体制になりそうだ。
いっぽう、アメリカではカリフォルニア州など一部州が電動化に前向きだが、連邦政府の環境局とは電動化の未来感が共有できていない。そのうえで、販売店やユーザーからは「e-POWERに対する市場からのニーズがまだまだ弱い」(日産幹部)という状況のため、当面はアリアを軸にじっくりとEV化を進める可能性が高い。中国でも、NEV(新エネルギー車)政策の動向を見ながら慎重に電動化を進めていく。
そして世界屈指のハイブリッド大国である日本では、ノート以降の第二世代e-POWERの対応モデル拡大しつつ、アリアの次を提案していくことになるだろう。
こうした日産の動きを、コンサバだと見る人もいるだろう。なぜならば、メルセデス・ベンツが「(市場環境が整えば)2030年にはグローバルで新車100%電動化」としてEV拡大を一気に進めようとしているからだ。
そのほか、ボルボやジャガーなども一気にEV化を目指しているが、プレミアムブランドではテスラに見られるようにユーザーのEVを通じたブランド価値に対する考え方が、日産のようなマスマーケット(大衆市場)ブランドとは明らかに違う。
日産は、1800年代から続くグローバルにおける自動車産業のなかで、大手自動車メーカーで「リーフ」という大衆向けEVを本格的に大量生産した最初のメーカーである。その知見を基に組み上げられた、電動化を軸足とする「Nissan Ambition 2030」は、日産という企業が等身大で考えた現実的な将来構想だと思う。日産の次の5年、そして次の10年に注目していきたい。
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