■まずは郊外の富裕層がセカンドカーとして購入か
興味深いのはキャラクターが異なるが、サクラと同じ工場で生産されるeKクロスEVでは取り扱うセールスマンからは「サクラの売れ行きが良ければ、生産比率が減りそうだ」との弱気ともとれるコメントが聞かれた。
三菱自動車はアウトランダーやエクリプスクロスといったPHEV(プラグインハイブリッド車)モデルを積極的にラインナップしているし、いち早く軽自動車規格のBEV“i-MiEV”を開発しており、いまでも軽自動車規格電気商用車となる“ミニキャブMiEV”をラインナップしている。
消費者としても電動車を積極的にラインナップする三菱自動車には興味があるのだが、やはり過去の度重なる不祥事によるブランドイメージの失墜がまだまだ影響しており、それを超越して三菱の電動車を購入するような“新規三菱自動車ユーザー”の獲得がなかなか進まないといったこともあるように見える。
逆に日産自動車はBEVとなるリーフを初代発売から10年ほど販売を続けてきたということが、サクラの販売状況を後押ししていることは否定できないだろう。「リーフを長い間販売してきた日産のBEVだから」というのが後押ししているのは間違いない。
補助金を考慮した支払総額を見れば、上級カスタム系モデルのハイト系内燃機関搭載軽自動車(日産ならルークス)を購入したのと同レベルの予算で購入できるし、残価設定ローンでは内燃機関を搭載する軽自動車より設定残価率が高いので、十分魅力的な支払プランで購入することができる。
満充電での航続距離が180kmということからも販売現場では「遠乗りはおすすめできない」としているので、結果的に地方都市の生活に余裕のある家庭のセカンドカー的ニーズが目立ってきているようである。
ただし、筆者はこのような需要を否定するつもりはない。そもそもBEV先進国の中国でも一過性の出来事とも言われているようだが“マイクロBEV”が大人気となっている現状を見れば、BEVの特性というか現状を見れば街乗り用としてニーズが広まっていくのもBEV普及の一つの“筋道”とも言えるし、日産もそこを狙っているのは間違いないだろう。
・日産サクラ 2か月で受注台数2万2000台以上 2022年7/20
・日産アリア 2021年6月4日発表から10日間で約4000台受注 2022年7月末受注一時停止
・三菱eKクロスEV 1か月で受注約3400台 2022年6/12
■国内の雄・トヨタの動きは?
気になるのは国内販売で圧倒的な販売シェアを誇るトヨタの動き。bZ4Xはトヨタ系ディーラーで販売は行わず、個人ユーザーならばKINTO(個人向けカーリース)の利用のみでしか手に入れることはできない。
なぜKINTOのみとなったのかについては諸説あるが、トヨタとしては初となる本格量販BEVとなるので市場投入に慎重な姿勢を見せているといえるだろう。
ただ、このKINTOのみというのがbZ4Xそのものの評価以前に普及の足かせとなっているようなのである。リースとはいえ700万円近い商品をウエブサイトから端末入力にて申し込みすることに抵抗を示すひとが多いようなのだ。
「あるトヨタ系ディーラーのセールスマンは『ご希望があれば店頭で私どもがアドバイスして入力をお手伝いさせていただくことしかできません』と語ってくれています。」(事情通)。
当然ディーラーで販売していないので、店頭に試乗車などはほとんど用意されず実車に触ることができないことも大きい。あるトヨタ系ディーラーでは「そもそも弊社で販売しているわけではないので試乗車を用意しても仕方ないでしょう。しかも、弊社が用意するとしてもリースを利用するしかありません。
一般的な試乗車は短期間使用して中古車として転売しますが、リース車両は返却しなければなりません。そのようなこともあり弊社では試乗車をご用意する予定はありません」と説明してくれた。
bZ4Xは実車も触れないし、購入することもできないとして、兄弟車で販売しているソルテラが注目されているとのこと。
「トヨタディーラーへ行っても実車はないし、リースなので所有もできない(古い世代の日本人ほどクルマ以外でもリースに抵抗が少なからずあるようだ)、さらにパソコン入力して申し込むのにも抵抗のあるお客様が、試乗車のある弊社にこられることがあります」とはスバル系ディーラーセールスマン。
ディーラーでセールスマンから商品説明を受け、購入して納車後の面倒も見てくれる。まだまだ消費者レベルでは“未知”な部分も多いBEVだからこそ“顔がつながる”販売活動こそが大切と考えるのは古い世代である筆者だけなのだろうか。
ちなみにbZ4X及びソルテラには、6月24日にタイヤに取り付けるハブボルトに不具合が発生し、最悪は脱輪する恐れがあるとしてリコールが届けられている。対策はまだ決まっておらず、当面の措置として当該車両の使用停止が要請されている。
メーカーやBEV個々で売れ行きにはバラつきがあるのだがHEV(ハイブリッド車)に比べれば、新型車デビュー直後の温度差をBEVでは強く感じてしまう。
BEVそのものに対して消費者が“様子見”していることや、日系モデルのラインナップが少ないことなどもあるが、販売サイドから積極的に売り込むことができないことも大きいと見ている。
業界関係者や自動車メディアに携わる人から見れば“余計な心配”となるが、充電設備の充足状況が消費者の購買行動を足踏みさせていることは間違いない。ガソリンスタンドの廃業が進みながら、充電施設の普及が進んでいるので、実際ネットなどで検索すると想定外に充電施設が多く存在することに驚かされる。
しかし、売る側から「BEVはおすすめですよ」と積極的に売り込める状況にあるかといえば、それは難しい。「動力が根本的に異なるので、内燃機関車に比べれば“不便だなあ”と思わせてしまう部分があることは否定できません」とは現場のセールスマン。
興味を持って購入を検討してくるお客には案内できるが、「買ってください」と誰にでも手放しでセールスマンが勧めることができないのが、BEV販売がいまひとつ盛り上がらない背景にあるのは大きいだろう。
しかも6月末には首都圏地域において連日35度以上となる“酷暑”が続き、電力供給がひっ迫する事態になり大騒ぎとなった。しかも7月1日から9月30日にかけ政府は節電要請を行っている。そして今年の冬はさらに電力供給がひっ迫するといわれている。
このような電力供給の現状を見てしまうと、実際問題は別としても心理的には「政府はBEVの普及を声高に叫びながら、節電を理由に利用を控えろとか言い出すのでは?」となるのは自然の流れであり、せっかく魅力的なBEVがリリースされても周辺環境が整っていないことにより、普及にブレーキをかけるといった状況になっているようにも見える。
また、同調圧力の強い日本社会の特徴から、電力供給のひっ迫がさらにシリアスな状況になれば「節電が強く呼びかけられているのにBEVに乗っているなんて」と世論が動いて、BEVに乗っていると後ろ指をさされるといった事態も起きかねない。
報道によると、EU(欧州連合)加盟国は6月29日に開かれた環境相理事会において2035年までにゼロエミッション車のみ販売可能とし、内燃機関車の販売禁止を認めた。法案成立はまだ少し先になるが、法案成立もほぼ間違いないとされている。
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