俺たちの日産、ホンダはどこへ!? かつての名車にみる“らしさ”と現状

 日産には「技術の日産」という標語があり、ホンダには「パワー・オブ・ドリームズ」の標語がある。

 近年、それらの言葉は忘れられがちのところがあり、例えば日産なら「やっちゃえ日産」、ホンダなら「サイコーにちょうどいいHonda」のほうが、耳慣れた宣伝文句かもしれない。

 しかし、企業の姿勢を示す標語をまさに体現したクルマが現れると、我々は嬉しくなり、またホッともし、そして乗ってみたいという気持ちになるのではないだろうか。

 日産とホンダは独創的な技術や夢を与える車で多くの人々を惹きつけてきた。

 現状に対して「俺たちの日産・ホンダはどこへ行ってしまったんだ」というファンの声も、両メーカーに対する期待値が高いことの裏返しだろう(もちろん「俺たちのホンダ、俺たちの日産なんてものはとっくに消えている」だとか、あるいは「そんなもの最初からなかったんだ」というクルマ好きが多くいることも承知している)。

 俺たちの日産・ホンダ“らしさ”とは何なのか? そして、現状の何が物足りなさを生んでいるのか? 両社を体現する過去の技術・車から考えたい。

文:御堀直嗣
写真:編集部、NISSAN、Honda


「技術の日産」を体現したスカイラインGT-Rとプリメーラ

R32型スカイライン GT-R(1989年発売)/280psを発揮する2.6L直6ターボエンジンの性能はもちろん、電子制御4WDのアテーサE-TSなど独自のメカニズムも好評を博し、今なお高い人気を誇る

 技術の日産を体現した一台は、R35型GT-Rではないだろうか。日産が持つ技術の粋を集めたGTカーであり、時速300kmで普通に会話できる操縦安定性と、猛烈な出力を併せ持つクルマだ。その造形もまた、他に類を見ない独自性がある。

 それでも、より幅広い世代の心に深く浸透しているのは、R32型スカイラインGT-Rではないか。その系譜は、R34型GT-Rへとつながっていく。では、なぜ、R32 GT-Rがそれほどまで人の心をつかんで離さないのだろう。

 理由の一つは、R32 GT-Rが、当時のグループA規定によるレースで勝ち、選手権を制覇することを目的に開発されたことにある。スカイラインという乗用車の利便性より、クルマの本質的な運動性能を極めた形や構造が設計された。

 例えば、新車が登場するたびに車体は大柄になる傾向があるが、R32のスカイラインは、GT-Rの復活を前提にあえて小型化されたほどだ。

 強い目的意識によって構想し、技術の粋を集めたのがR32 GT-Rであり、ハコスカとケンメリ時代以降途絶えていたGT‐Rの称号の復活と併せ、人々の心をときめかせた。なおかつ、当時の世界のグループAの競合を圧倒する成績も残し、無敵といえた。

P10型プリメーラ(1990年発売)/欧州車にも影響を与えた性能はもちろん、パッケージングにも秀で実用面でも技術力を発揮した1台

 また、R32 GT-Rの誕生とともに、日産車が技術力を明らかにした新車に、P10型初代プリメーラがある。

「プリメーラパッケージ」の言葉が生まれたほど、このクルマは5ナンバーのFF車として徹底した合理化が行われ、一台の4ドアセダンで実用性を極めるのみならず、FF車の走行性能においても世界に打って出るほどの実力を発揮した。実際、欧州でプリメーラを買いたくても納車が間に合わないといった人気も博した。

 技術の日産という企業の特徴を体現したクルマの誕生が顕著だったのが1980年末から90年にかけての時代であった。

今の日産車は何が物足りないのか?

 その後、カルロス・ゴーンの手にゆだねなければならないほど日産は業績が悪化し、ルノーとの提携も行われ、技術の日産を実感できる新車がなかなか出なくなった。そこへ、R35 GT-Rが登場する。

 だが、それは必ずしも多くの消費者の対象となる車種ではない。電気自動車のリーフも誕生したが、これも一充電走行距離などの点で多くの人には不安を残す技術への挑戦であったといえるだろう。

 だが、e-POWERと呼ばれるハイブリッド車が開発され、ノートとセレナに採用されることで、技術の日産を実感させるクルマを多くの人が手に入れられるようになった。

 あるいは、e-Pedalというワンペダルでの運転、プロパイロットパーキングという自動駐車機能が順次登場し、再び技術の日産を感じさせる独自性が現われだした。日産車に乗る意味や誇りが復活し始めているといえる。

VTECエンジンやオデッセイで魅せたホンダらしさ

VTECエンジンは、1989年のインテグラに初搭載。写真のグランドシビックにも追加された「SiR」に搭載され、以後タイプRを含む様々な車種に展開された

 ホンダは、2輪・4輪・汎用の分野でそれぞれ人々の生活に役立つ動力(パワー)を提供し、暮らしを豊かにしようと取り組むメーカーだ。動力付き自転車から創業し、2輪時代を経て4輪へと事業を拡大した。その中核をなすのは、やはりガソリンエンジンである。

 初代シビックで、CVCC(複合過流調速燃焼方式)を開発し、世界で最初に排ガス規制を達成してみせた。あるいは、VTEC(可変バルブタイミングリフト)という吸排気バルブ機構を編み出し、低回転での実用性と、高回転での高出力を両立させる技術で消費者を魅了し、また世界を驚かせた。

 そのVTECがシビックに搭載され、やがてタイプRと呼ばれる高性能車種につながっていく。日常生活を支える小型2ボックスカーのシビックが、VTECによって高性能マシンになる。それはまさに、“パワー・オブ・ドリームズ”といえる商品の誕生だ。その延長線上に、ミッドシップスポーツカーのNSXがある。

初代オデッセイ(1994年発売)/全高を抑え「セダンの性能とミニバンの居住性」を両立した革新的な発想は多くのユーザーに支持された

 人々の暮らしに役立つクルマとして、次に人気を得るのがミニバンのオデッセイだ。米国生まれのミニバンを、オデッセイは日本に根付かせた。そのオデッセイにも、VTECを搭載するアブソルートと呼ぶ高性能車種を揃えるのである。

 日々の暮らしのなかに、非日常を体感させる高性能を、ホンダはVTECでもたらした。ガソリンエンジンが持つ実用性と夢を、ホンダは消費者にもたらしてきたのである。ホンダファンがいまも根強く存在する背景に、夢のある生活が重なっていたはずだ。

いち早くEVやFCVを開発もハイブリッドで躓き

2002年より日米でリース販売された燃料電池車のホンダ FCX。一般ユーザー向けの販売には至らなかったが、箱根駅伝の先導車としても活躍した

 しかし、時代は二酸化炭素(CO2)排出の削減を求め、電動化への道を選ぼうとしている。ホンダは、1990年代初頭にいちはやく電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)の開発を手掛けた。それらは、パワー・オブ・ドリームズの言葉通り、環境性能を満たしながら高性能で、運転の喜びを体感させる実証実験車だった。

 だが、その後、ハイブリッド車のインサイトを誕生させたが、それは技術への挑戦であっても生活を支えるクルマではなかった。また、あまりにガソリンエンジン主体であることに執着しすぎた。そこからホンダの環境への取り組みは停滞する。

 その後ようやく、ホンダらしい技術に凝った独創のハイブリッドシステム、スポーツ・ハイブリッドを3方式(i-DCD、i-MMD、SH-AWD)開発し、市場導入を行った。

 ところが、1モーター方式のi-DCDでリコールを起こした。技術の成熟より急速な販売実績を追う経営の誤りがあったといえる。環境に対する市場の要請を見誤り、遅れを挽回しようと焦った結果だろう。

 そうした苦い経験を経て、ホンダはNSXにハイブリッドのパワーユニットを搭載し、またクラリティでは、一つのプラットフォームでFCV、EV、PHEVを実現するという、独創的な取り組みを開始した。

今、必要なのは“Power of  Dreams”を感じる身近なホンダ車

2012年に追加された先代フィットハイブリッド RS。現行型のRSはガソリン車のみとなるが、日産がe-POWERで成功したように、身近な車種で夢と実用性を兼ね備えたパワーユニットを実現することこそ、ホンダらしさのひとつといえるかもしれない

 だがそれらも、多くの消費者に届く車種ではなく、また、フィットRSやシビックタイプRは、ガソリンエンジン車のままだ。実用性と夢を重ね合わせた、パワー・オブ・ドリームズの身近なホンダ車はまだ現れていない。

 エンジンか、ハイブリッドか、モーターかという形式にこだわるのではなく、優れたパワーソースが人々を幸せにするという標語、パワー・オブ・ドリームズを掲げるホンダが世界を牽引するハイブリッドの次なる姿をホンダファンはいまも期待しているはずだ。その技術力において、他に引けを取る状況ではないだろう。

 時代に先駆けた夢のある商品を市場へ送り出す、まさに商品企画の問題といえる。電動化はまた、従来の計算式による装備とコスト感覚では、採算が取れないと見える側面もある。

 かつて1990年代に、モーターを自在に操った技術者たちがホンダには居た。そうした知見を活かしながら、未来への道を切り拓いてもらいたいと願う。

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