■BEVだからこそできる商品への変革
基本的に今のBEVは、脱炭素の要請に対する、社会的責任の履行という意味合いが色濃く、走行性能の効率化を第一義にして、みな同じ方向を向いています。
その結果、どれも同じような走行感覚のクルマになっています。これでは、ユーザーに買いたいと思わせる感性の刺激は伝わらず、現状のような、購入補助金に助けられたBEVの市場が続きます。
実は、私は日産時代の20年以上前からBEVの先行検討をし、台湾のLUXGENでは先行開発も実際にやっていました。
定期的なバッテリー交換や、日々の充電時間といった制約が求められるBEVがエンジン車より魅力を持つためには、エンジン車よりも多い荷室や衝突安全性など誰もがわかる効率的な車両のパッケージとエンジン車ではできなかったわがままな装備の実現が必要です。
モーターの駆動力や静粛性だけではなく、クルマとしての優越感です。
それを実現できるのがRR駆動方式です。モーターと多段変速ギアボックスをリアフロア下に搭載し、電気制御系の大物ユニットはガソリンタンクのあった位置に搭載。バッテリーは現状BEV同様床下搭載というフロアパッケージです。
エンジンのないフロント部には第二の荷室を設け、車体構造も衝突安全中心の設計が可能となります。4WD化をする場合のフロントモーターは荷室と差し替えです。プラットフォームの大半はe-Fuelのエンジン車と共用が可能ですし、リアフロアの高さも変わりません。
そして、エンジン車ではできなかったわがままな装備です。エンジン音がない静かなBEVだからこそF1のサウンドや、アメ車の図太い音など好みのバックサウンド(疑似排気音)などが楽しめる音源を装備できます。
ユーザーはその日の気分で選び楽しめます。また、ビジュアル的なグラフィック表示メーターと多段変速ギアを使いモーターの1万回転での駆動力を使いこなしたり、タコメーターの指針と駆動性能の使い分けなどが楽しめます。
単にエンジンをモーターに変えた現在のBEVから、“BEVだからこそできる商品”への変革が必要なのです。
「BEVは電動モーターだからタコメーターは不要だ、静粛性はBEVの利点だ」。メーカーの開発担当はこのように言うでしょう。しかし、クルマの一番の魅力は走って移動することです。走行により刻々と変化する景色への操縦感と臨場感の演出が必要なのです。
例えば自宅のリビングルームにいて、無音の空間で何もしないことが心地よいですか?
私は、BEVが抱える大きな課題だと思います。ですからベストカーの誌面でもこのようなことを言い続けてきました。
少々BEVに対する提言が長くなりましたが話を戻します。
■BEVは後輪駆動がベスト
今回のXC40は前後2モーターのAWDです。シングルモーターの仕様もありますが、2024年モデルからは、今までの前輪駆動から一転、後輪駆動に変更されました。
前輪は転舵の角度が必要で、曲げて回転させるドライブシャフトには伝達のロスがあります。また転舵されたタイヤがエンジンルームに入り込むために回転半径を小さくすると、電動パワーユニットや車体構造部材の幅方向寸法は制約され減少します。
さらに、BEV化による車重の増加で厳しくなった前面衝突に対応させるため、フロントセクションには頑丈で重い電動パワーユニットを搭載せず、きれいに潰れるクラッシャブルな構造を作りたいのです。
今までは、熱や振動、騒音を発生させ、大きな搭載スペースも必要な、エンジンやトランスミッションをフロントのエンジンルームに搭載していました。そして、原価を安くして、室内空間も広くするためにFF(前輪駆動)としていました。
しかし、エンジンに比べてコンパクトで、従来のFR車のディファレンシャルギアケースとほぼ同じ高さと長さで幅だけが広いモーターと変速ギアのユニットは、タイヤの転舵スペースが不要なリアフロア下には余裕で搭載できます。前輪駆動の転舵による駆動ロスもありません。
ですから、XC40のシングルモーター車が、2024年モデルから、私が提言するRR(後輪駆動)に、変更するのは「進化」なのです。
ちなみにID.4は、すでにリアアクスルにモーターを搭載したRRとなっています。BMWのBEVも2輪駆動仕様はすべてRRを採用しています。
BEVの開発はエンジンをモーターに置き換えるという過去の延長ではダメです。2WDのBEVが前輪駆動というのは、車両パッケージングの視点からは、理解に苦しみます。欧州車は進化しています。
コメント
コメントの使い方電気自動車なんかもう誰も買わないっすね。時期尚早でしたね。