ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第二十三回目となる今回は、中西氏が現地を取材し、肌で感じた中国自動車市場の「今」について。「中国バブルは崩壊したから安心」なんて言ってると、近い未来足元を掬われてしまう…!!?
※本稿は2023年9月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、ATTO3撮影/中里慎一郎
初出:『ベストカー』2023年10月26日号
■日本車の価値は過去のものとなり、中国NEVの購入が「誇り」となっている
8月のお盆休みを活用して、4年ぶりとなる中国自動車市場の現地視察旅行に出かけました。市場からクレジットカード決済がほぼ淘汰され、慣れない中国決済アプリに悪戦苦闘しながら、7都市、10会社を巡りました。
グーグルマップがほとんど役に立たない、世界標準から見れば「ガラパゴス」的進化を遂げるこの大陸では、自動車も独自の進化を急速に遂げています。
「ゼロコロナ」政策による市場混乱が長期化したことで、中国市場がどう変革しているのか見えづらかったのですが、その実態がはっきりとしてきました。
多くの報道にあるとおり、中国新車市場の構造変化は不可逆的であり、この対応に出遅れた日本、ドイツの自動車メーカーの苦悩はまだ始まりに過ぎないと感じています。進行する構造変化は大きく4点あります。
第1に、新エネルギー車(NEV=EV、PHEV、燃料電池車)の普及が環境規制を超えて拡大しています。そして供給力は需要をさらに超えて拡大し、NEVの需給バランスは激しく悪化し、メーカー間の価格競争に歯止めがかかりません。
出口の見えない価格競争が激化し、価格下落がさらに需要拡大の起爆剤となる好(悪?)循環が続いています。
第2に、中国ローカルのNEVが燃費性能や走行性能というこれまでの日本車の提供価値を超え、勢力を拡大させています。日本車のシェアは下落に転じ、反撃にはまだまだ時間が必要と見られます。
下の図に示したとおり、中国のSUV市場では中国ローカルのNEVの価格、性能の魅力が伝統的な日本車の価値を超えています。
車両価格が安く、電気料金はガソリンの10分の1で済み、10%の購置税(日本でいう消費税)は免除されるわけで、中国製のNEVを買わない理由はないのです。
唯一の理由となるのは、以前であれば「中国車では面子が立たない」ということでしたが、現在では日本車の「グローバルブランド」というプレミアム価値は過去のものとなり、若い購買層を中心に中国ブランドのNEVを購買することが「誇り」に変わってきています。
この背景には、中国においてはデジタルネイティブな若い世代が新車購買層の中心に存在し、中国ブランドが推し進める車両の知能化・デジタル化に強く共感していることがあります。それはまさにテスラ的なクルマといえます。
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