現在でもドリフト車として多く使用されている180SX。元々は米国輸出専用モデルであった240sxを日本向けに改良し販売したというバックボーンを持つ。そんな180SXだが、1989年発売当初の試乗記を拝見し、どの立ち位置に属するクルマだったのか、性能はどうだったのかを確認し、20歳アルバイターが最後に感想を述べてみた。
この記事はベストカー1989年5月10日号(著者は徳大寺有恒氏)を転載し、再編集したものです。
■パーソナルカー時代のベーシックカー!!
のっけから価格の話で恐縮だが、この180SXに乗ると日本のクルマの安さはやはり相当なものだとは思う。私がテストしたタイプHのオートマチックトランスミッション車のプライスは206・7万円である。
考えてもみたまえ、このクルマのエンジンは1.8L、4シリンダー、DOHC、4バルブ、ターボ、インタークーラーというすごいスペックで、175馬力、23.0kg/mを発生するのである。
それに好むか好まぬかは別として、4スピードオートマチックトランスミッションが与えられている。そして、アクセサリーとしてAMは/FMステレオ(カセットデッキはない)、パワーウインドウ、集中ドアロック。
ただし日本車にはトランクリッドを開けるノブは外についておらずオープナーに頼るのでトランクはフリー、などなどがついている。
206.7万円を払えば少なくても0~400mが16秒台(だろう)、最高速200kn/hぐらいというクルマが買えるのである。 おそらく、これほど安く高性能車が手に入る国はほかにあるまいと思う。
その点で日本という国はすごいし、多くの人間にとっては幸せな国といえるかもしれない。
■えぇ!? シルビアとほぼ同じ!? しかもターゲットは若年層!?
180SXはシルビアと基本的に同じである。エンジン、シャシはまったく同じといっていい。違いはボディにある。
シルビアのクーペをファストバッククーペとしなかった理由は、日本国内での販売店の違いというメーカーの理由による。
ま、こういうことに関しては日本のメーカーはどうもセコいというか、アザトイというか、とにかく、いろいろやってまるで別のクルマとしたがる。
もっとも現在、シルビアはよく売れているので必ずしも異なった名称が得かどうかは判断の難しいところだが。とにかく180SXはボディ以外はシルビアと考えていい。
そして、このファストバッククーペはじめアメリカ輸出用として用意されたものなのだ。アメリカはごくごく一般の人がスポーツカーを買うマーケットである。
OLやサラリーマン1年生、大学生などが180SXのターゲットだ。彼らはけっしてエンスージャストであるとは限らない。このクルマが後輸駆動であるかどうかもあまり問題じゃなかろう。
それでいいといえばいいのだ。彼らはファストバックの流麗なスタイル、ポップアップライトなどを持つクルマをスポーツカーと思っているのだ。
■もちろん教えちゃいます… 安さの秘密!
そして、180SXはプロープやセリカ、エクリプスなどとマーケットで競う。冒頭に書いた安いプライスもそこに理由がある。
ひとつは数が多く売れること、もうひとつは可能なかぎりコストを下げる努力があるということだ。
このため、このクルマは実によく走るが、その走りに味を求めるといった種類のものではないその加速にシャープな切れ味や、ある重量が加速する時の手応えあるフィールを求めてもそれは得られない。
コーナリングについても同じである。けっこう速いコーナリングスピードが得られるし、相当な相手をやっつけることもできる。
しかし、そこにスティアリングの絶妙なフィールやタッチのよいブレーキは期待出来ない。いわゆる質感のある走りというものはない。どちらかというとそれは″カルーい″というものだ。
救いは後輸駆動であることだろう。そいつはこのクルマのやはり重要なファクターだと思う。
その後輸駆動の意味はけっしてフォーホイールドリフトではなくて(そいつは結果だ)トラクションにある。175馬力、23.0kg/mを比較的スムーズに路面に効果的に伝え得るのは、後輪駆動ゆえのことだろう。
180sxにはドッシリとか、カッチリというしっかりした感じはない。日本車ではそいつを求めると、もっと上級にならないとダメなのだ。それでもやはり安いというものは、商品として魅力がある。
このプライスで得られるものを考えたら、こいつを否定できやしない。
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