BMW M5(E28)試乗 スーパーカーM1のエンジンを載せた4ドアセダン 徳大寺有恒のリバイバル試乗記

BMW M5(E28)試乗 スーパーカーM1のエンジンを載せた4ドアセダン 徳大寺有恒のリバイバル試乗記

徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はBMW M5(E28)を取り上げます。
BMWによるスーパーカーM1。そのM1のエンジン・M88型直系である直6、3.5L DOHC24バルブエンジンを搭載した当時最速の4ドアセダンが、1972年登場の初代M5でした。今回ご紹介する徳さんの試乗車・E28はその第二世代型にあたります。
スポーツセダンとして開発されたM3に比べると、ストレート6(直列6気筒のエンジン)であること、3.5Lという大排気量だったこと、そして4ドアであることがM5の大きな魅力で、それは当時の国産車、たとえばクラウンやセドリックといった車たちにはとても太刀打ちできない、圧倒的な“スーパーセダン”でした。
徳さんがその加速に痺れ最高のフィーリングと表した、1985年1月号の 『ベストカーガイド』の試乗記をリバイバル。

※本稿は1984年12月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2017年7月10日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です


■“シルキーシックス”の系譜

BMW・M5はエレガントなエンジンというものが、かくもクルマをすばらしいものにするかということを再確認させてくれたクルマである。M5は久しく忘れていたスーパーリムジンの味を思い出させてくれた。

BMWがその最大の売り物である“洗練”を武器にここ7~8年世界中で人気を博してきたのは、すでに皆さん承知のことである。

しかし、そのいっぽうでBMWは内外ともにすばらしくリファインされれば、されるほど、かつて巧みにブレンドされていた“野性味”を失いつつあった。

メルツェデスのように大排気量のV型エンジンを持たないBMWとしては、持てるパワーユニットのストレートシックスをツウィンカム化するかターボ化してその優位を保つしかない。

そして、それは3.2L、後に3.4L SOHCターボを搭載する745iとなった。次にかのスーパーカーM1の3.5Lストレートシックス、ツウィンカム4バルブエンジンを生産型ボディに与えることにあった。

M1譲りの直6DOHC24バルブ、3.5ℓエンジン。ヘッドカバーのM Powerの文字が誇らしげだ
M1譲りの直6DOHC24バルブ、3.5Lエンジン。ヘッドカバーの「M Power」の文字が誇らしげだ

最初にこのエンジンを与えられたのはM635CSiだ。おそらく世界中のBMWファンはこのM635CSiを喝采を持って迎えた。これこそ、現代に求められるエンスージャストのためのBMWなのだ、と。

このM635CSiの人気に気をよくしたであろう、バイエルンはMエンジンの増産化に成功した。そして5シリーズに展開されたのだ。5シリーズにはM535iという少量生産のスポーツリムジンもあり、3.5Lストレートシックスだが、SOHCヘッドで218馬力だった。

インテリアはとてもシンプルでBMWらしいが、スピードメーターは280km/hまで刻んであった
インテリアはとてもシンプルでBMWらしいが、スピードメーターは280km/hまで刻んであった

確かにM535iは速い。しかし、その速さは普通の速さだ。何かがもの足りない。今回登場したM5は違う。M1以来のMというだけに、想像以上の加速とパフォーマンスを持っていた。

シートやステアリングは本革製で、当時としてはとびきりのプレミアムサルーンだった
シートやステアリングは本革製。当時としてはとびきりのプレミアムサルーンだった

■BMWが“スーパー”である所以

日本にたった1台のBMW M5はガンメタルグレーよりも濃い、ジェットブラックに近いメタリックである。外観上、このクルマが286ps/6500rpm、34.7kgm/4500rpmという途方もないパワーユニットを持つスーパーリムジンであることを示すものは、フロントグリルとリアのトランクリッドに小さく飾られた「M5」のエンブレムだけだ。

リアスタイルはトランクリッドのM5エンブレムとBBS製アルミホールによって差別化されるだけだ
リアスタイルはトランクリッドのM5エンブレムとBBS製アルミホールによって差別化されるだけだ

もともと5シリーズは大人しいスタイルだが、M5もその存在を目立たせようとせず、ひっそりとした佇まいで、そのつつましやかなムードが、すっかり気にいってしまった。

これはBMWモデルをベースにしているアルピナやハルトゲへの痛烈な皮肉である。BMWのセンスのよさはたいしたものだと感心してしまう。

さて注目のパワーユニットはM88と呼ばれるツウィンカムフォーヴァルブヘッドのストレートシックス3453ccでボア×ストロークは93.4×84.0mmとさすがにショートストロークだ。

このブロックはBMWのモータースポーツ用であり、現在の535や735の3.5Lとは系列が違いモータースポーツ用だ。エンジンフードを開けるとロッカーカヴァーに「M Power」と記されたストレートシックス、3.5Lがギッシリと詰まっている。

いかなる靴ベラを使えば、このコンパクトな5シリーズのエンジンベイにこのパワーユニットが入りしものか!?

しかし、ストロークのたっぷりとしたスロットルを深々と踏んだときの痛烈な印象は少々の時間では消えるようなものじゃない。

NA直6DOHC24バルブが放つ気持ちのいいエキゾーストノートは、M5の最も大きな魅力のひとつだった
NA直6DOHC24バルブが放つ気持ちのいいエキゾーストノートは、M5の最も大きな魅力のひとつだった

低速でのフレキシビリティとスムーズネスには誰でも驚かされる。フォースギア1500回転でも明確な加速を腰で感じることができる。むろん、ドラマは4000~6800回転までで、6800回転で自動的に回転は止められてしまうが、4500~5000回転ほどのトルクは、それこそウェブスターの辞典のごとき分厚いものだから、6800回転の頭打ちも不便は感じない。

人間というもの、あまりツルツルは気持ちが悪いものだ。むろん、ザラザラはダメだ。ごく細かいヤスリで柔らかいアルミニウムを削るようとでもいおうか。それが、感性に響く。エンジンもそうだ。いい感じの抵抗を感じつつスロットルをスムーズに深々と踏む。エンジン回転がそれにつれて上がり、トルクが気持ちよく盛り上がっていく。言葉で表すなら官能というしかない。

ターボの底知れぬ速さは確かにすごいが、それは時に人間を恐れさせる。いっぽう自然吸気エンジンは、すさまじい加速を見せつつ、それでもドライバーにはそれを楽しむ余裕がある。そのことが、私が自然吸気エンジンを好む理由だ。

大人4人がしっかり乗れて、荷物も載せられ、最高速度250km/hで走るいっぽう、渋滞でも乗りやすい。世界最速の4ドアセダンでありながら、乗用車としての実用性とマナーも持つこと。これをスーパーと言わずしてなんといおう。

◎BMW M5(E28)主要諸元
全長:4620mm
全幅:1700mm
全高:1400mm
ホイールベース:2625mm
エンジン:直6DOHC
排気量:3453cc
最高出力:286ps/6500rpm
最大トルク:34.7kgm/4500rpm
トランスミッション:5MT
サスペンション:ストラット/セミトレ
車重:1430kg
価格:1120万円
総生産台数:2191台
※並行輸入車のスペック

0~100km加速:6.1秒
最高速:251km/h
※メーカー公表値

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