■車両の価値を下げることなくお得に購入する秀逸な仕組み
単純に12万円をキャッシュバックすると、事実上の一斉値下げとなり、対象車種の価値を下げることにもつながりかねず、将来下取りや買い取りに出すときに残存価値をメーカー自らが下げてしまうことにもつながりかねない。
過去にあるメーカーが、扱い車のほぼすべてで大幅値引きを恒常的といっていいほど行い販売していたことがあった。
すると、中古車価格が下がってしまい、他銘柄(他メーカー)車へ乗り換える時には、下取り査定額で折り合いがつかず自銘柄(同メーカー車)へ乗り換え続けるしかなく、これが“●●地獄”などとも呼ばれ、長い間そのイメージを引きずったことがある。
ただ今回のキャンペーンは、あくまでローンやリースを利用したお客への特典となり、直接的な車両価格からの値引きにはならないので、車両の価値が下がることはない。
さらにあくまでローンなどの利用に対する特典ということなので、車両本体価格やオプションなどの用品からの値引きや下取り査定額の上乗せなどが引き締まることもないとのことである。
キャンペーン期間については、9月30日までの成約が対象となるが、購入した新車については、12月末までに登録できればよいことになっている。
■キャンペーン期間にもひと工夫 秋冬の販売も青田買いという戦略
一般的には、半期決算セールなど、新車をより多く売らなければならない“増販期”と呼ばれる時期に的を絞ったセールスプロモーションでは、9月末までの成約及び登録完了(販売実績としてのカウントは登録台数ベースで行うのが原則)として対象を絞ったものが一般的。
あえて今回12月末までに登録ができればOKとした背景について、新車販売事情に詳しいA氏は、
「トヨタは他メーカーに比べると、ディーラーが積極的に在庫をストックしないこともあり、納期が多少かかる傾向にあります。このキャンペーンはそれを逆手にとり、10月や11月、12月の販売実績も早めに刈り取る、“青田刈り”も行おうとの狙いが見えます。
秋以降は新型コロナウイルスの感染拡大第2波や第3波がくるともいわれていますので、そのようなことになったとしても、影響を受けないような安定した販売台数の確保を狙っているようにも見えます」
と話す。
消費者へのインパクトも大きく、新車販売も好調に推移しているとのことなのだが、販売車両の偏りが解消されない点が問題になっているとされている。
「よく売れる車種には偏りがあります。しかも、それが人気がより高く納期のかかり気味なモデルばかりとなっているのです。納期が早く、直近の販売実績につながる、カローラやノア系ミニバン、クラウンなどの販売があまり伸びないところが販売現場では悩ましいと聞きます」(A氏)。
■キーポイントは「囲い込み」 キャンペーンで残値設定ローンを狙う
キャンペーン対象を、ローンやリース利用者に限定しているところにも注目したい。元来日本では新車購入においては現金一括払いが圧倒的に多かった。
しかし、残価設定ローンが登場し普及が進むと様相が一変。ディーラーによってはローンを利用しての新車販売比率が全体の6割に迫ろうとしているところもある。
安全面など、いろいろな装備の標準化も進み、近年の新車価格は総じて割高イメージが目立っている。そのなかで現金一括払いにて新車への乗り換えを考えると、乗り換えるスパンは10年前後になるともいわれ、実際平均的な保有期間は長期化の傾向にある。
そのなかで短いスパンでの新車での乗り換えと(回転をよくする)、自銘柄車への継続的な乗り換え、つまり囲い込みを狙って登場したのが残価設定ローンである。
いまどきの新車販売の世界では、一般論として、残価設定ローンを利用して短期間で乗り換えるひとと、現金一括払いで乗り換えを続けることで、乗り換えスパンの長いひとに二極化しているのが現状となっている。
今回の80,000ポイントキャンペーンでは、おもに残価設定ローンの利用促進を狙っているところも注目に値する。どのメーカーでも顧客の囲い込みを狙って残価設定ローンを導入している。
導入当初ほどではないものの、自銘柄車への乗り換えを前提としているので、他銘柄車へ乗り換えをする時には不利に働く(下取り査定額が設定ざれた残存価値より下がってしまうなど)ことがまだまだ多い。
つまり残価設定ローンによる新車購入客の囲い込みは、各メーカーにとって、将来も安定した新車販売が期待できるのである。
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