長年、ラグジュアリーカーブランドの頂点に君臨する「ロール・スロイス」。伝統のあるこのメーカーから、2023年冬に新型電気自動車「スペクター」が発売される予定だ。さらに2030年までにすべてのモデルを完全電動化することを発表しており、期待が高まる。
そこで、本稿ではロールス・ロイス第1弾のEV「スペクター」を解説。そして、名門メーカーならではのEV、クルマに対する意志についてひも解いていく。
文/大音安弘、写真/ロールスロイス
【画像ギャラリー】創業者の理想がついに実現!! ロールス・ロイス初の電気自動車「スペクター」(15枚)画像ギャラリーロールス・ロイスならでの秘話がここに
英国のロールス・ロイスといえば、長年、ラグジュアリーカーの頂点として君臨し、多くの政府要人や富豪たちの絶大な信頼を得てきた。それを物語るロールス・ロイスの有名なエピソードがある。
ある紳士が愛車であるロールス・ロイスで旅を楽しんでいたところ、プロペラシャフトが破損し、立ち往生してしまった。困った紳士は、ロールス・ロイス社に連絡をすると、なんと修理スタッフがヘリで駆けつけ、その場で修理を完了。
無事、紳士は、旅行を終えることができたが、いつになっても修理の請求書が届かない。そこでロールス・ロイス社に問い合わせると、「ロールス・ロイスがそんな故障をするはずがありません。何かの間違いでしょう」と返答されたという。
そんな事実があったかは別として、ロールス・ロイスが徹底したクルマ作りとサービス体制を敷いてきたことを示すものといえる。
2023年冬 ロールスロイス新EV登場!! 厳しい走行テストの内容とは
そんなロールス・ロイスも2030年までに、すべてのモデルを完全電動化し、そのときまでに内燃機関を搭載する製品の製造と販売から撤退することを発表している。つまり、いかなる要求にも応えられる完璧なEVの開発に乗り出すことを公言したのだ。
その第一弾となるモデルが、2021年9月29日に、存在が明かされた「スペクター」だ。このEVである大型2ドアクーペは、コンセプトカーではなく、2023年第4四半期(編注:1月~3月)には、最初の顧客への納車も予定されているという。
ただ現時点で公表されている情報は、極めて限定的だ。プラットフォームは、現行型ロールス・ロイス同様に、オールアルミニウム製スペースフレームアーキテクチャーを採用。この現行型プラットフォームは、全てのロールス・ロイスに使われるだけでなく、電動化にも対応できるように設計されているという。
そのデザインは、ファントムクーペを始めとする歴代大型クーペのサイズや情緒性を意識したもので、ファストバックのシルエットとファントムクーペの特徴であるスプリッドヘッドライトも継承している。
空力特性にも優れており、Cd値(空気抵抗係数)は、わずか0.26にすぎない。足音を彩るアルミホイールには、クーペモデルとしては、1926年以来となる23インチを装着しているという。まだテスト車は、完全なカモフラージュが施されており、ディテールの細部を知ることは出来ず、サイズや性能などの情報についても、一切公表されていない。
その市販化に向けたテストプログラムは、ロールス・ロイス史上最も厳しいもので、総走行距離数は250万kmにも及ぶもの。この壮大な距離を必要とする理由は、この新世代を担うロールス・ロイスが400年以上使用されることを想定したものだという。ちなみに、新世代のEVたちが将来的に部品を交換して、乗り続けられる体制の準備も進められているというから驚きだ。
その最初のテストが、終了を宣言したウィンターテストである。北極圏からわずか55kmの地点にあるスウェーデン・アリエプローグの特設施設は、冬期シーズンでは外気がマイナス40度まで低下する極寒の地である。ただ冬期からスタートするロードテストは、ロールス・ロイスの新型モデルのお約束であり、EVに特化したことではないとのこと。
厳しい条件下で、さまざまな機能や耐久性を確かめるのはもちろんだが、雪や氷などのトランクションをかけにくい路面で走行させることで、意図的に車両を不安定な状態にすることで得られるデータも重視しているためだ。
低ミュー路(編注:滑りやすい路面)であれば、通常は高速走行でしか発生しないダイナミックな状況を低速域で作り出せる。そこで得られたデータをパラメーター化することで、操縦性や安定性、挙動の予測、ロールス・ロイス特有の浮遊感のある乗り味などの作り込みに活かしているという。
つまり、厳しい条件下のテストは、極寒での信頼性や耐久性だけなく、その後のチューニングの土台にもなるということなのだ。このウィンターテストでは、50万kmを超える走行テストが終了しており、計画するテストプログラムの25%を終了したことになるという。
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