ドライバーにとって身近なドライブレコーダーは、事故時などの状況を記録するための録画デバイスだが、実は、より詳細なデータを得られる“事故記録装置”が、すでに多くの新車に実装されていることをご存じだろうか?
このEDRで記録したデータを分析すれば、驚くほど詳細な客観的事実がわかるという。では具体的に何がわかるのか? EDRのデータを“文章化”してレポートする、日本では数少ない認定アナリストが解説します。
文:松田秀士(レーシングドライバー/自動車評論家)
写真:Bosch、Honda、編集部
【画像ギャラリー】図解で解説! “事故詳細記録装置”EDRとCDRの仕組みとは?
なぜ速度までわかるの? 320km/hの事故経験で芽生えた疑問
20年前の2000年5月。筆者はインディ500の決勝レースに駒を進めるため、予選前の走行を行っていました。約1kmの直線では約380km/hに達し、そのままアクセル全開で第3ターンに飛び込んだところでマシンはスピン。左後部から激しくコンクリートウォールに激突し重傷を負ったのです。
翌朝、チーフドクターが手術明けの筆者のベッドに来てこう言いました。
「You made a track record yesterday.」(君は昨日トラックレコードを作ったんだよ)
ドクターの説明によるとコンクリートウォールに激突した時の速度は320km/hで、その時受けた衝撃が160Gだったとのこと。Gとは重力のことで、我々が普段立って生活できるのもGのおかげ。これが1Gです。
つまり、160Gは重力の160倍の衝撃があったことを表しています。この160Gがインディアナポリスモータースピードウェイ始まって以来の不名誉な記録となったのです。
この時アクシデントロガーと呼ばれる三軸の加速度計がマシンの重心位置に搭載されていました。その記録データから160Gをはじき出したのだろうが、衝突時の速度が320km/hはどうやって計測したのか?
その疑問が、今回お話するCDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)アナリストの勉強をして全てが解決しました。CDRレポートではデルタVとして表示される加速度(速度の変化)。これを基に算出したのだと。
デルタVとは加速度のことで、事故解析では速度の変化率としてCDRレポートに出てきます。これを基に計算することで事故時の相手車両の速度など様々なことが解析できるのです。
さて、こう話してもちんぷんかんぷんだと思います。前置きが長くなりましたがそのCDRについて説明しましょう。
EDR=事故の詳細を記録するUSBメモリのようなもの
EDR(イベント・データ・レコーダー)をご存じだろうか? まぁ知らないのが普通ですね。どういうものかというと、事故がどのようにして起き、どれだけの衝撃があったかの詳細を後で検証できるシステムのこと。
記憶に新しい高齢ドライバーによる池袋での事故。あの時アクセルを踏んでいたのか? ブレーキを踏んだのか? 何km/hで衝突し、その衝撃度は? などなど、EDRにデータとして残されているのです。
そして、EDRのデータを解析し、レポート化するのが認定資格を持ったCDRアナリストの仕事。このCDRアナリストは現在日本に150人程度しかおらず、主に警察や公的な事故調査機関、国内自動車メーカーのエンジニア、損害保険会社の方々が資格取得しています。
かくいう私、松田秀士も今回資格取得研修に参加し認定試験にパスして認定アナリストになったわけ。人生の中でいちばん勉強したのかも? それくらい専門的で難しいことがいっぱい! ということで、いったいEDRってどうなの? ということをもう少し詳しくお話しましょう。
EDRは、イベント・データ・レコーダーの頭文字です。読んで字の如くイベント(=事故)が起きた時にデータ(=詳細)をレコード(=記録)する装置の事です。
このEDRは、ACM(エアバッグ・コントロール・モジュール)というECU(コンピューター)の中に仕組まれています。わかりやすくいうとUSBメモリのような記録装置です。
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